二書目『それがその子と出会った話』
3LDKという間取りのマンション。
玄関を挙げてすぐ廊下の左には僕のへや。右隣に洗面所。そして、トイレ。
扉をひらくとリビング、隣接するのは、和室と物置部屋と貸した六畳ほどの部屋。
そんな、マンションの810号室に僕は一人で。独りぼっちで住んでいた。
僕は部屋の窓から入ってくる光を睨み、逆方向を向き寝転がった。
チュンチュンと小鳥が外で鳴いている。
これが、日常というごくありふれた、退屈で。それでも、居心地が悪いわけではないものの朝を迎えた。
あぁ、学校か。
4月8日。入学式。
福岡県福岡市東区香椎双葉高校の入学式。
徒歩で40分、自転車で15分。そんなところに位置している双葉高校に僕は今年から通うことになっていた。
県内でもかなり有名な進学校。僕のような勉強大嫌いっ子が入るには勿体ない様なところ。
だってそうだろう。僕がこの高校に受かることによって、真面目に勉強したであろう子が落ちてしまったのだから。
まぁ、なぜこんな高校に入ったかという理由は適当に後付けすればいくらでもある。家から近い。中学の担任にお勧めされたからなど。
とりあえず、そんなことはどうでもいい。
時刻は7時前。入学式が始まるのは8時45分。
余裕だな。そんな風に思ってゆっくりリビングへと向かう。
誰もいない。当たり前だ一人暮らしなのだから。
僕は買っておいた食パンをトースターに二枚放り投げ制服に着替える。
チンッと心が落ち着くような音を聞き、パンにジャムを塗り食べ終えた。
さて、そろそろいこうかな。
僕は鞄を持ち、家の鍵、財布、その他もろもろを手に持っているか確認して家を出た。
ただいまの時間は約7時30分。
少し早いか。そんなことを想いながらも、エレベーターでしたに降り駐輪場まで歩く。
鍵をあけ、サドルに跨がりペダルを踏んだ。
それにしても、寒いなぁ。四月というのに、まるで真冬のような寒さを感じさせる。
うー、早くいこう。踏み切りを渡り、コンビニの前を通り、大学生たちが立ち往生している駅をくぐり抜け、ゆっくりと、学校へ向かった。
そして、高校近くにある、下り坂、それが終わるとすぐに始まる長い登り坂。
これを毎日、登り降りしなきゃならないのか。
そう考えると全くもって行く気力を削がれた。
まぁいいか。坂を降り始める。
以外と急な坂はブレーキによる抵抗を無かったかのように進む進む。
そんな、下り坂のせいで。僕は大変な目にあった。
いや、その少女は散々な目にあった。
早さに気をとられ、気が付かなかった。
左の死角から、表れた幼い少女は、僕の綺麗なママチャリを赤く染めた。
「だ、大丈夫か!?」そんなはずはない。ブレーキを無視した自転車の早さに轢かれたのだ。子供でも大人でも、大丈夫な筈はない。しかし、それ以外の言葉がみつからなかった。
「う、ぅぅ」少女は涙を流し呻いた。
僕は頭の中が真っ白になり、気がつけば救急車の中に、寝転がる少女といた。
僕はなにがなんだかわからず、現実を逃避するために目を瞑った
時刻は8時30を過ぎ、9時を時計の針は指そうとしていた。