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第8話 精霊と面接指導

 公共職業安定所は人間、エルフ、ドワーフなどの多様な人種の人々でごった返していた。どこも不景気なのだろうかこんなに職を求めている人がいるとは、なんて現実逃避をするように机の上に置いた求人票から目をそらして辺りをうかがっていると。


「ぬしよ。まわりを見ている場合かや? 仕事を探す作業が先であろう?」


 俺が視線を声がした方に向けてみるとアイリが求人票をファイルしているフォルダーを両手に抱えて立っていた。


 どうやら、アイリは俺の手元にある求人票が一通り目を通し終わったの見て、新しい求人票を持ってきてくれたようだ。


「わざわざ求人票を持ってきてくれたのか。ありがとう」


「就職などなぜ必要かわからぬがぬしがそんなに望むのならば多少は手伝わねばなるまいよ。それとこの程度で礼などはいらぬ」


 アイリはそう言って俺から顔を逸らすようにそっぽを向く。なんだ?照れたのか。可愛らしい奴だ。


 俺はアイリから求人票を受け取ってしばらく求人票を見ていると冒険者の寄り合い所帯であるクランの事務職を募集の要項に目がとまる。労働時間も長くない。そして、給料も良くも悪くもない。


 俺は前回のオカマバーの反省を生かして堅実そうな仕事であるクランの事務職に挑戦することにした。


 俺は就職の意思を公共職業安定所の受付嬢に伝えるとすぐに面接会場に行くようにいわれた。俺が面接を受ける予定のクランはこの街で最も栄えている繁華街であるセントポーリア3丁目にあった。今、俺はそのクランが所有する建物の待合室で待機している。


「面接は何度やっても緊張するな」


「だから、ぬしは面接が下手糞なのじゃな」


 アイリが俺の言葉を聞いて朗らかに笑っている。


「うるさいな。アイリより俺の方が上手だわ」


「ぬしに比べるとわっちの方が流石にできると思うのじゃが…」


 アイリは呆れ顔で俺の方を見てため息をつく。


「精霊が面接なんてまともにできないだろ?なにを言ってるんだか…」


 俺の言葉を聞いたアイリは挑発するように、


「ぬしより、よほどうまくできると思うのじゃ。何だったら、面接官をしてしんぜようかの?」


「アイリが面接官?面白そうだな。やってみてくれよ」


 アイリにまともに面接官なんてできないだろう?と言いかけて俺はその言葉を飲み込み、アイリの挑戦を受けることにした。


「仕方がないのう。では、ぬしは○×商会という道具屋で面接をしているという想定でいこうかの」


「わかった。さて、どんな質問がくるのやら」


 俺はアイリからくる質問に身構える。


「ぬしはなぜ、この商会で働きたいと思ったのじゃ?」


「面接官のアイリさんが可愛いからここで働きたいと思いました」


 アイリが顔を赤くして俯く。


「ぬ、ぬしよ。真面目にやって欲しいのじゃ」


「俺はいつも真剣さ」


 俺はアイリの瞳を睨みつけるようにそう言う。


「本商会があなたを採用するメリットはなんですか?」


「商会長のアイリさんに愛をお届けいたします。そして、彼女を一生大切にします。だから、永久就職させてください」


「ヒモになるという意味かの!?」


アイリが驚いたような顔でこちらを振り向いてそう叫ぶ。


「では、気を取り直して、あなたにとって仕事とはなんですか?」


「アイリと一緒に暮らすために必要な労働のことです」


「ぬしよ。わっちはそろそろまじめにやってくれんと怒ろうと思うのじゃがどうじゃ?」


 アイリがニコニコとこちらを見てそう言う。


「ごめん、ごめん。まじめに答えるよう。葉っぱ生活からの解放されるための手段です」


「頭が痛くなってきたわい。ぬしよ。そろそろ、葉っぱパンツから離れないかの?」


 アイリはそう言って自らの額に手を当てて俯く。


 そんな風にアイリと戯れ合いながら面接練習をしていると扉が急に開いて、中年の男が入ってきた。


「ユウさん。面接をはじめますのでこちらまできてください」


 中年の男の人がこちらに来て俺に声をかけてくる。


「ぬしよ。どうやら、練習はここまでのようじゃな。頑張ってきなんせ。わっちはその腕輪の中からぬしを見守っておるからの」


 アイリからの優しい視線に俺は頷き面接室へ向かった。しかし,精霊と面接指導や練習をしたのは、長い人類史上でも俺がはじめてだろう。そんなことを考えていると案内をしてくれたおじさんが扉の前で止まった。


「面接はこちらの部屋で行います。ノックをしてお入りください」


「わかりました」


 おじさんに促されるまま、面接室の前までいってノックをする。


 ノックをして面接室に入るとそこには大柄なくせ毛がついた男がどっしりと木製の椅子に腰掛けていた。


「良くきたな。ひとまず、そこに座れよ」

「はい、失礼します」


 ふてぶてしい態度の醜い顔の男がアホ面で俺にそう言ってくる。俺は促されるままに椅子に座る。


「おまえはいろんなところで採用試験に落ちまくってるんだってな?こっちにも情報が入ってきてるぜ」


 面接官は俺を見るなり、人を値踏みするようにジロジロとこちらの様子を伺ってきた。


「本当に葉っぱ1枚なんだな」


 そして、面接官はニヤニヤしながら、


「そんな格好でくるおまえは馬鹿だな。こんな馬鹿を採用したくないな!」


 そう俺を見ながら言ってきた。


 馬鹿だと!?面接官が俺に喧嘩を売ってきたぞ。そして、いきなり採用したくないと言ってきた。これが圧迫面接と言う奴だろうか。俺はこの調子で面接は大丈夫だろうか…

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