第7話 求職中
アリスの家というオカマバーから逃げ出した俺は寝床である郊外の広野で虫に刺されながらも就寝していた。
俺が起きて目をあけると草を束ねて作った簡易の寝床にアイリが俺を覗き込むような姿勢で腰をかけていた。
「おはよう。きちんとした睡眠は取れたかの?」
「バッチリだ。今日こそ就職を決めてやる」
アイリが俺に話しかけてきた。こいつは精霊だからか睡眠がいらないようで俺が寝てる間は退屈なのだろうか朝は犬のように戯れてくる。
「なにを言っておるのかの? ぬしはすでに就職先が決まっておったではないか」
「あんなところで働けるかよ!」
なにが悲しくてオカマじゃないのにあんな格好をして働かなければいけないのか。
「折角、就職先が決まったのにぬしときたら、根性がないのう」
「…確かにどんなキツい仕事でもやれる自信はあった。でも、ゲイバーでオカマキャラとして働きたくないわ!」
「ぬしにはピッタリじゃよ」
「ニヤニヤ笑いやがって。絶対にまともな所に就職を決めてやるからな」
悪意ってものが表情に現れるとしたらこんな顔だろうと言わんばかりにアイリの顔はイヤらしい表情をしている。
本当にこいつは精霊なのだろうか。悪魔かなにかの間違いではないだろうか。俺がそんなことを考えているとアイリが俺の言葉に返事を返してきた。
「楽しみにしとりんす。では、さっそく、仕事を貰いに行こうではないか」
アイリめ。本当に上から目線で言いやがって、就職活動がどれだけ大変かわかってないな。アイリに促されて俺は公共職業安定所に向かった。
公共職業安定所について俺はすぐに仕事内容が書いてある求人票をホルダリングしたファイルケースを手に取り閲覧する。
学校の臨時講師、料亭のコック、医者って、どれも技能が必要な仕事ばかり募集してるじゃん。俺ができそうで簡単で高給取りな仕事はないのか…
「どこかに楽で労働時間が短くて高給取りな仕事はないだろうか」
「ぬしよ。前もそんなことをいっておったが、そろそろ現実を見てくれんかの?」
やめて、アイリ。俺を可哀想な人を見る様な目で見ないで。
「わかったよ。アイリ、今から俺は現実的なことを言うぞ。…ひとまず、俺は服が買える安定した仕事につきたいんだ!」
「ぬしの就職したい理由を聞くとそれはそれでかわいそうな気がするのは気のせいかや?」
俺の話を聞いたアイリはため息をつきながら俯く。そして、アイリがこちらを急に睨みつけるような力強い視線を送ってきた。
「ひとまず、ぬしよ。この前の反省を生かしてきちんと求人票を見るのじゃぞ」
「つまり、俺ができそうな仕事を探せと言うことだろ。これなんてどうだと思う?」
俺はそういって、労働時間が短くて給料がそこそこ良い仕事をアイリに見せる。アイリはその資料を見るなり。
「モデルの仕事?ぬしはモデルができるようなツラだと思っておるのか?」
「俺の美しさが理解できないとはアイリはかわいそうな目をしているんだな」
「無茶面の上に馬鹿とは救いようがないのじゃ」
「無茶面って、さすがに傷つくわ!」
俺の表情は苦虫を噛み潰したんだろうと言わんばかりの表情になっていると思う。アイリにそんな風に思われていたことがショックでやりきれない。
「すまんかった。醜男じゃったな」
「もうだめだ。心に大きな傷ができて、なにもやる気が起きなくなった」
もうだめです。俺のライフは0なのにさらにアイリが追い打ちをかけてきます。助けてください。
「嘘じゃ、嘘じゃよ。本当に醜い者に醜男など言えわせぬ。ぬしは良い。男じゃ」
「そうだろう。そうだろ。もっと褒めて」
まったく、アイリのお茶目さんめ。さすがに俺でも醜男と言われたら傷ついちゃう。
「…少しばかり、知恵が足りぬがな。まぁ、それもかわいげがある方じゃよ」
「なにか、ボソッといったな。なんだ?」
「いや、わっちはなにも言っておらんよ。それよりか、大の男がそんな軽いジョーダンで落ち込むものではない。圧迫面接じゃとぬしはすでに落ちておるぞ?」
「いやだ。いやだ。最近の精霊様は就職事情に詳しい過ぎる。現実的な精霊なんて夢も希望もありゃしない」
今の世の中は精霊も就職事情に精通してないと行けない世の中なのかよ。世も末だ。
「ゆえにぬしの就職先もありゃしない訳じゃな?」
「現実が酷すぎる!って、この精霊は口が悪いよ」
「ぬしが頭が悪いように人には必ず一つくらい悪いところがあるものじゃ」
「アイリは人じゃないだろ?そして、さらっと俺の悪口を言うなよ」
何なんだよ。俺の悪口でも言わないと生きていけないようなレベルで暴言を吐き過ぎだ。本当は精霊じゃないと言われても俺が信じてしまいそうになるくらいに酷い言葉ばかり言っているぞ。
「そんなことよりもぬしができそうな仕事をはやく探すのじゃ」
「俺の言葉は無視ですか。アイリさん!」
そんなくだらないが楽しい会話を続けながら俺たちは仕事内容が記載されている求人票が入っているホルダーをめくっていった。