第8話 精霊と人間
リアが言っていた詠唱を思い出しながら彼女が持つ首飾りに魔力を込める。
「我は望む。新たなる力を…。我はタダの脆弱なる人に非ず。我は新たなる力の権化なり。吸夢!!」
魔術によって、精霊王から流れ込んでくる魔力の奔流が大きすぎる。人が耐えれる限界値を軽く超えているのではないだろうか。肉体が膨れ上がり、血管が暴走したように脈動しているのがわかる。
「いい加減にせぬか!! 精霊王たる我の力を人間ごときが吸収して耐え切れるはずがなかろう!!」
「諦めるかよ! リアにできて、俺にできないわけ無いだろう! 貴様の力を奪ってやる!!」
爆ぜそうになる身体を押さえ、そう叫ぶ。
「ヤメロ!! ワガチカラヲウバウデナイ! ソレにそのオンナも吸収しきれなかったからソウナッタンダロ!!」
そう言った後、俺に向けて力を放つ。俺は咄嗟にサイドステップをして避ける。
「おいおい、チカラを吸い取られてもまだそんな強力なチカラを振るえるのかよ」
先程まで俺が居た場所は大地が少し抉れている。相変わらず、凄まじい力だ。
「ワレは精霊の王ナリ! 不変のモノだ!!」
「この世に不変のモノなんてあるかよ!! お前は俺に吸い尽くされるんだよ!」
絶対にこんな所で死なないぞ。生き残ってやる。
「ほ、ホレ、身体が透過しておるぞ! まだ、間に合う。ヤメた方が…」
「ヤメル? 何をだ!!」
俺は絶対に生き残ってアイリに会うんだ。例え可能性が1%だとしても絶対に会うんだ!
「我を吸収して死んだら、おまえの望む再会は叶わないかもしれないんだぞ?」
「ここで、お前を放置したら会えるのか? 違うだろう! 精霊界に行っているアイリに俺は絶対に会うんだ。そのためには力は必要なんだよ。俺の今後のために糧になれ!!」
「そ、そんなくだらない。ことのために我は滅ぼされるのか!」
「滅ぼされて、なるものか!! 人間界にようやくこれたのだ! あの時の屈辱を人間どもに返すまでは死んでも死に切れん!!」
「ウォー!!」
俺も、精霊王も叫ぶ。この世のモノとは思えないような声で…
しかし、その時、既に俺の限界は…
俺の肉体から感覚が無くなっていくのがわかる。徐々に消えていく…
くそ、消えてたまるか!!
「ッあ、う…」
「た、助かった」
身体が徐々に透明化していく。いや、もう、既に手から魔導具がこぼれ落ちたことを考えて俺は人間としての生涯に…
「フハハハ、まだ、これだけのチカラがあれば数十年で回復させることができる。滅ぼしてやる。人間どもめ!!」
くそ、精霊王のやつはとんでもないことを行ってやがる。いや、アイリ以外はどうでもいいか…
それに俺は最後にアイリにすら会えずにこのまま消えるんだ。ちくしょう…
「人間がなんですって?」
先程まで、倒れ伏していたリアが俺が落とした魔導具を拾い、精霊王の前まで歩み寄る。
「くっ、貴様!! それは!? くそ、力が吸われる! その魔導具を使うのをやめよ! 我は封印などされぬ。力をまた蓄えて復活してみせる!!」
「蓄える? あなたは私に食べられるのよ」
そう言って、舌なめずりをするようにリアは精霊王を見る。まるで、肉食獣が獲物を狩るように…
「ま、待て! 貴様は人をやめたいのか!? もう既に肉体は限界のはず!!」
「ええ、そうよ。限界ね」
彼女の否定の言葉を聞いてホッとしたのだろうか。精霊王は今にも消えそうな姿のまま安堵したようなほほ笑みを浮かべ、
「そ、そうだろう。封印する程度が望ましいのではないか?」
とリアに提案するように自らが逃げれる方法を述べる。
「でも、目の前でバカが無謀なことをやって死んでいるのを見ているとね。頑張らすにはいれないのよ」
そう言って微笑む。
「私は最初から自分を人だとは思っていないのよ? だから、お気になさらず。あなたの残った力を全て頂くわね」
最初はリアの発した言葉の意味がわからなかったのかキョトンとしていた精霊王の顔も徐々に彼女の発した意味を理解していったのか青ざめる。そして、絶叫。
「や、ヤメろ! ああ、我が力を奪うでない!! あ、あああ、アアアァあああぁぁぁ!!」
絶叫が鳴り止む頃、精霊王の姿が完全に消え失せた。その後、リアは何かを確認するように拳を握りしめる。
「フフフ、やはり、思った通りね。自らの魔力の限界値を超えなければ精霊を取り込んでも、人間の姿のままなのね」
「…彼は無事にアリシアに会えたのかしら?」
そう言って空を見上げ淋しげに微笑む。それが俺が見たここでの最後の光景だった。




