第1話 オレの願は彼女と一緒にいることだけ
潮風が鼻腔を撫で、近くに海があることを知らせる。馬がしばらく疾走すると馬車の窓一面に広がる青。そんな窓から見える光景にどこか懐かしさを感じで眺めていると、
「綺麗でしょう? あれが海よ」
と言って、向かいに座っているリアが微笑みかけてきた。彼女はきっと俺が海を見たことがないと思っているのだろう。それ故に惚けて俺が海を眺めていると…
確かにこの国の多くの民は一生を内陸部で過ごし、海を生涯見ることはないだろう。この俺もこの国に生まれてから一度も海など見る機会がなかったのは確かだからな。
「確かに綺麗だ。アイリと一緒に見たかった…」
その言葉は俺の口から自然に出てしまった。それ程、俺にとってはアイリは特別な存在なのだ。当たり前だけどな。
しかし、その一言で彼女が一瞬だけ悲しげな顔をした。そう思ったら口元に笑みを作って、
「まったく、辛気臭い話。こんなに美女が隣にいるのにそんなことを言うのかしら?」
と言ってきた。力強い笑みだ。俺に気を使わせないためにあえての軽口。
「まぁ、いいわ。それよりも、体力を温存しておいてね」
どこか遠くを見るような目で彼女は話しかけてきた。まるで、これから強敵と戦うかの如く。
「モンスターでもでるのか?」
「ええ、ある意味モンスターね。すぐにわかるわ。さぁ、港に着いたわよ。行くわよ」
俺は彼女に促されるままに大型の帆船に乗り込む。強い日差しなのに暑さをそれ程感じない。きっと、潮風のお陰だろう。
「こんなデカイ船が動くのかよ!! すげぇな!!」
日本にいた頃も海水浴以外に海に縁がなかった俺は船になど乗ったことがない。木で出来た実物の船を前にそんなことが自然に口に出てしまった。
「あんまりはしゃがないでね。恥ずかしいから。それと…」
「それと?」
ううん、なんでもないわと言って、静々と自分の個室に入っていたリア。一体、彼女は何を言いたかったのだろうか。
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しばらくして、ひどい、船酔いです。こんなに揺れるのかよ。オエェ。
「水いるかしら?」
自室で寝込んでいるオレのもとにコップを持ってベットの前の椅子に腰掛けるリア。
「なんで、おまえは元気なんだよ…」
俺は情けない声でリアを見ながらそういう。自分でも分かっているよ。かっこ悪いと思う。でも、この気持ち悪さの前にはミエなど意味ないのだよ。
「なれてるからよ。この程度で泣き言を言うなんて人選を間違えたかしら?」
「聞こえているぞ!! って、なんの人選なんだよ!!」
「わからないの? 精霊王に会おうっていうのよ。ただで済むはずないでしょう…」
いや、え? そうなの精霊の王様ってそんなに危ないやつなのか? 俺はランプの魔人のごとく願を叶えてくれるのかと思っていたよ。お前の願を言え、聞き届けてやるみたいな。
「どこに向かっているんだ?」
現実はそんなに甘くないと言うことか。リアのような奴が人選とかいう言葉を使うということはきっと危険なことなのだろう。
「…ヴァルデンブルグよ」
俺がガキの頃にこの国に編入された地方だな。確か元々は独自の神を信仰していた歴史の長い海洋国家だったはずだ。まだ、独立派などが暴れまわっていると聞く。この国の中でも危険な場所の1つだろう。
「精霊王を召喚するためにはかの地に行かなければならないのよ」
彼女はなにかを決意したかのようにこちらを力強い瞳で見つめてきた。その瞳には確かに宿る思いの強さと底知れぬ悲しみを感じたような気がする。




