第2話 護衛任務は危険な香り
冒険者ギルドの中に入るとギルドは五月蝿いくらいに賑わいを見せていた。それもそのはずだ。近々、仮面舞踏会が開催される為に臨時でたくさんの仕事が募集されているからだ。
俺はアイリにネックレスをプレゼントしたい一心で、ライナーに何か良い依頼はないかギルドの受け付けで聞いていた。
「ライナー、なにか簡単で稼ぎが良い仕事はないか?」
俺は一刻も早くネックレスをプレゼントしてアイリの喜ぶ顔が見たいんだ。だから、自分でも無理なことを言っていると分かっている。
でも、ついついそう言ってしまったのだ。案の定、ライナーは困った奴だっと言わんばかりにこちらを見てきた。
「ユウ。良い加減に現実を見ろよ。冒険者の仕事はきつい、汚い、苦しいの代名詞だぞ? ほら、あっちの掲示板を良く見てこいよ」
ライナーの痛い助言を耳に入れた後に俺は彼に促されるまま冒険者ギルドの仕事依頼が貼付けてある掲示板に向かった。
「くそー、ライナーの奴め。楽で稼ぎが良い仕事を俺に紹介してくれてもいいのにな」
こんなことを言っても無駄だとは分かっていても、そう呟いてしまう。独り言を呟きながら掲示板を眺めていると。
ユウ、うん? 誰か俺を呼んでいないか。気のせいだろうか?
「ユウ? 冒険者ギルドに仕事の依頼を取りにきたのですか? いったいどんな仕事が欲しいのですか?」
気のせいじゃない。誰だ!? 俺の名前を呼ぶ奴は? 慌てて振り向くとそこにはリアがいた。しかも、彼女の表情はなぜかニヤニヤと笑っている。
「なんだよ。リアかよ。俺は忙しいんだよ。すぐに終わってある稼ぎが良い仕事を探しているからな!」
俺は良い仕事が見つからない苛立を、あえて抑えずにそんなことを投げやりに言ってやった。もちろん、リアからライナーと同じようにそんなうまい話しはないという説教を受けることは想像していた。
だけど、3時間も掲示板と睨めっこをしているとストレスでそんなくだらないことでも、言わずにはいれないのだ。
「あなたは大変ラッキーね。ちょうど、良い仕事がありますよ?」
リアは俺の話しを聞いたあとに喜色満面な笑みで話しかけてきた。なんか、怖いんですけど。こんな露骨な笑みを見せた奴が良い話を持ってきたことなんて経験上ないって断言できるんだけどね。
リアのこの表情はなにかを企んでいるような表情だな。こりゃ、厄介な仕事を押し付けられるだろうな。俺はそう内心で怯えざるえなかった。
だが、ひとまず、先に仕事を把握することは重要だと、俺は危険信号を告げている直感を抑えつけて具体的な仕事内容を尋ねることにした。
「イヤな予感がするが、それはどんな仕事なんだ?」
俺はイヤそうな顔しながら、言っていたのだろう。リアは俺を安心させる為か、そんなことはないんだと言わんばかりに自信に満ちた表情で俺を見つめ返してきたぞ。
「この舞踏会に参加するある高貴な美しいと評判の少女を護衛するのが今回の仕事ね。仕事時間は短くて今日だけ、そして、支払いも良いと折り紙付きよ」
そうリアが今回の仕事について自信満々に言いきる。俺は自信満々のリアの表情を見てこれは嘘じゃなさそうだと思わざるえなかった。
「そんなに良い仕事があるのかよ!? いいな!」
今回の仕事内容を考えて俺はまだ見ぬ美少女に思いに思いを馳せながら、顔がニヤけてしまう。
「どうですか? やりますか?」
リアは嬉しそうにこちらに確認を取ってきた。俺はそれに二つ返事ですぐに答える。
「やるぜ! やる!」
俺の返事を聞いてリアが安心したようにため息をつく。
「そう、やってくれるのね。ありがとう」
リアがそう言って額に腕をやり、汗を拭き取る。
「仕事内容も条件が良い。何よりも美少女を見るのが楽しみだ!」
ため息。冷や汗を拭き取る? なんだ、この如何にも厄介ごとを押し付けるのに成功して安心したような素振りは!?
俺はリアの一連の動作を見て、仕事内容に少し不安になってきたぞ。で、でも、よく考えろよ俺。美少女のために仕事ができるんだぞ? こんなに嬉しいことはないだろ。美少女だぜ? 美少女!!
「ぬしよ。わっちというものがありながら…」
俺が美少女と仕事ができることに喜んでいると。アイリが半眼で俺を睨みつけてくきた。いや、アイリさん。あなたが俺の一番です。でも、美少女を見たいと思う気持ちは男の本能…
「見るだけだよ。ムッサイ野郎と仕事を一緒にするよりも奇麗な子と仕事をした方が楽しいんだよ!」
まるで言い訳みたいだ。いや、言い訳だな。焦りながらアイリにそんなことを言う俺は情けないな。
「いや、そんなに奇麗、奇麗と言われると照れますね。仕事を引き受けてくれたから言うけど評判の美少女とは私のことよ」
嘘だろ? 確かに美少女だけど。性格が酷過ぎるだろ? しかも、自分で美少女とか宣うとか。とんでもないことをサラッと言いやがった。俺はリアの発言を聞いてやる気がかなり減退していくのを感じざる得なかった。
「お前のことかよ!」
俺はそう魂から叫んだような気がする。だって、本当は俺って、そんなに美少女の護衛任務などに期待してたわけじゃないんだ。
それにどうせ、高貴な身分の元美少女とかネタ的なのを少しだけ想像していたのも事実だからね。それほど、落ち込まないよ。うん、やる気にならないね…
「…やっぱ、やめようかな」
俺のやる気ゲージはもうゼロだね。もちろん、リアの護衛がイヤでやめたわけではない。美少女の護衛ができないからやめたのだ。
ア、アイリさん? こちらを睨んでないか? ま、まさか、心でも読まれたのか!? いや、嘘です。嘘ですよ? アイリさん!!
「…美少女の護衛ができないのか。やめようかな」
「ぬしよ。それがよかろう。美少女なんていなかったしの」
アイリがそう皮肉げな顔でリアを見たあとにそう言う。リアはそれを聞いて少し傷ついたような顔をしながらこう言ってきた。
「…ひどいわ! でも、1日の仕事で25000Gよ。報酬額としては良いのではないかしら?」
リアは奇麗な顔を引きつらせながら今回の依頼額を告げる。俺は1500Gの布のシャツすら変えなかったことを思い出し、頬がだんだんと緩んでいくのがわかるぜ。
「アイリよ。俺は君の為にこの美少女のもとで仕事をすることに決めた。良いか?」
俺は真面め腐った顔でアイリに今回の依頼を受ける旨を伝える。
「わっちはぬしの言うことに大賛成じゃ!!」
アイリの賛同の言葉を得た後、俺たちは互いを見て頷きあう。
「アナタたちって、すごく現金ね」
そんな俺たちを見てリアが呆れたのか苦笑している。
「どうだ、羨ましいだろう。この息の合いよう」
夫婦みたいだろと続けて俺が言うとリアは苦笑いをするのみだった。まったく、このベストカップルに対して苦笑とは失礼な奴だ。




