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第1話 旅立ちは突然に

 人生ってやっぱり甘くない。2度目だからといって、別に戦闘能力が特段に優れている訳でもないし、天才的に頭が良いというチートがある訳でもない。


 そして、もちろん、ゲームや小説のように隠れた才能が開花するということは現実世界では余りないわけでさ。俺は異世界に転生しても普通の人であった。


 確かに小さい頃は、前世の記憶が有効に作用して同年齢のやつらよりも優秀だったと思う。しかし、それは昔の話だ。俺はどこまでいっても凡人であった。


 成長するに従って、才能が開花していったまわりの連中に差をつけられていくことから改めてそのことを自覚させられていった。


 そう、この頃からだろう。自らの普通さ加減がイヤになり、徐々にやる気が失われていった。


 そして、意欲がなくなった俺の人生が転落するのは早く、気が付いたら2度目の人生もニートになってしまった。2度に渡る人生をニートとして暮らしている人物はいくら世界が広いと言っても俺くらいだろうな。


 つまり、俺はニートになるべくして生まれたエリニート(エリートのニート)と言っても過言ではないかもしれない。今はそう思う。いや、本当に…


 そんなエリニートである俺の住居はセントポーリアと呼ばれる街の外れにあるカール川付近であった。そこで、俺はニート生活を満喫していた。


「また、川原で全裸のまま日光浴をしているの!?」


 川原で横になって、気持ちよくまどろんでいる俺を起こすように耳障りな声が聞こえてきた。


「ユウやめてくれない? 姉さんが近所の人からまた苦情を受けることになるのよ?」


 俺が起き上がり、姉貴であるカトレアの顔を見ると、彼女は厳しい眼差しで俺を睨んでいる。


「日光浴のなにがいけない? これが俺の生き甲斐だ。裸で大自然を感じる。健康的ですばらしいだろ?」


「そんなことばかり言ってないできちんと働きなさいよ! 父さんと母さんが亡くなって何年たっていると思っているの!?」


 う、苦しい、呼吸ができない。俺がこっちの話は無視かよとそう思っていたら、この女は鬼のような形相でいきなり俺の首を絞めてきた。そんなことをやられたら酸素が肺に入らないから。死ぬからやめてくれ。いや、やめてください。


「私が言いたいことはわかっているわね?」


「ギブ、ギブ!姉さん!! 死ぬから首を…」


 呼吸がしたい。呼吸がしたい。これ以上は死ぬ。死んでしまう。あれ、急に苦しくなくなった。そう思った矢先に俺の目の前に大地が見えた。口の中に土が入ったよ。


 本当になんていう姉貴だ。首を絞めたと思ったら俺を投げ飛ばしやがった。とても、同じ血を分けた姉弟とは思えない慈悲のなさだ。


「ゲホ、ゲホ、そんなのだから姉さんは結婚ができないだろ! もう、27歳だろ!?」


「何かいったかしら?」


「ちょっと、姉さん。さっきのは本の軽い冗談です。いつもの素敵なカトレア姉様に戻ってください」


 俺の姉貴の表情は本当に怖い。それは羅刹と言われても信じてしまいそうになるほどに険しい表情だ。いや、あれは嫉妬にかられた醜い怨念が夜叉となって現世にあらわれたと言われても信じるレベルだね。


「もう、一度言うわよ。何かいったかしら?」


「イエ、ナニも言っていません」


 怖すぎる。どうにかこの状況から逃げ出さなくてはそう思って必死で頭をまわす俺…。しかし、何も解決策が浮かばなかった。


 これは逃げるタイミングが重要だ。カトレアの表情を確認してうまくやるしかないと思って彼女の表情を伺う。え、なに、あの表情? すごい、恐ろしいのだけど。凄まじい表情で睨みつけてくるカトレアを見て本当に情けないことに俺の身体が震えてくる。


「姉さんは悲しい。弟が亡くなるのはね。それも裸でなんて!」


 ちょっと、俺の首を絞めるのは、やめてください。カトレアが俺を絞め殺さなければ良いだけじゃんって、俺の意識が遠くなりそうだ。


「どう?仕事する気になった?」


 仕事する気になりました。本当です。そう思っても、酸素が口に入らないから声が出せないだけど。死ぬ。苦しい。手を放してください。


 そう、現世と再度さようならをさせられそうになっていた俺は気が付くと地面に激突していた。起き上がって見た姉の顔はなんだろう。笑顔なのに目がまったく笑っていない。怖い。


「痛い! ゲホ、ゲホ、仕事する気になった。今、俺はすごく働きたい!」


 羅刹のような表情から一転して笑顔に変わった姉貴にひとまず脱ニート宣言をすぐに述べる。さっきの羅刹のような顔から笑みになっている姉貴を見て身体が勝手に震えている。


 くそ。ああ、そうだよ。正直に言おう。怖いんだ。本当に早く姉貴の前から逃げ出したい。俺に取ってこのカトレアの笑顔はそれだけ恐ろしかったのだ。


「今度こそ、きちんと就職を決めてくるのよ!ほら、選別。父さんの形見よ」


 そんな俺を見てカトレアが声援を送ってきたあとに腕輪を投げてきた。危ないだろとキャッチしながらそう思う。


 それにこの腕輪は親の形見だろ。そんな酷く扱うなよ。まぁ、怖くてそんなことは言えないけどね。ひとまず、オヤジの形見をなくすわけに行かないから腕につけることにした。


「じゃ、行ってくるわ」


「気をつけてね」


 俺は姉貴から別れの言葉を聞いたあとに駆け出す。しばらく、仕事を貰いにギルドに行こうと川原を走っていると…


「って、俺は裸じゃん」


 自分が全裸日光浴をしていたことをすっかり忘れていた。ひとまず、急いで姉に見つからないように衣服を取りに実家に戻るかとそう思って自宅に向かう。


「誰も、いないよな? また、姉さんに首締められるのは勘弁して欲しい」


 自宅に着いた俺は先程の姉とのやり取りを思い出して首をさする。嫌なことはひとまず忘れて早く服を取って仕事をもらいに行こう。そう、思って首に掛かっている家の鍵を使う。


「あれ?ドアが開かない。どういうことだ!?」


「どちらさまですか?」


 え、誰だよ。そんな聞いたことのない声が家の中から聞こえたけど。きっと気のせいだ。そう思って、鍵をもう一度、入れようとした時に扉が急に開く。


「どちらさまですか? キャー」


 俺を見るなり、叫びだすとは失礼な人だ。しかも、勝手に人の家に上がり込んでさ。非常識な人もいるものだとそう思って、俺は自らを見回す。って、俺は服をきてなかった。それに気付いたが俺は慌ててその場から逃げる。


「腕輪になにかついている」


 走っている途中で俺は腕輪に小さな紙が挟まっていることに気が付いた。なに、なに、実は家を抵当に入れといた。今日くらいから別の人が入居するからね。よろしく。頑張れよ! 姉より。その紙には姉の自筆と思われる汚い字でそう書かれていた。


「頑張れよ!じゃないだろ!!」


 俺は姉のとんでもない行動につい誰もいない所で文句を言ってしまった。


「あっちの方向に走って逃げていきました。裸の男が私の家に押し掛けてきました。そして、私を襲おうとしたんです。すごく、怖かったです」


 俺の耳に聞き捨てならない内容と共に女性の甲高い声が聞こえてきた。俺は慌てて、その声がした方向に視線を移す。見ると俺の視界に先程、元自宅にいた妙齢の女性が馬鹿みたいな大きな声で喚き散らしている。


「本当ですか?奥さん、もし、本当ならばそれは強姦未遂罪で逮捕する必要があります」


「警官さん。いました。あの男です。あの裸の男で間違いありません。怖いです」


「本当に全裸の男がいる。奥さん、すぐにあの犯罪者を取り押さえますのでご安心ください。そこの性犯罪者! 動くな。強姦未遂罪で逮捕だ。逃げるなよ!!」


 妙齢の女が俺を見るなり、いきなり指を差す。それを見て、女性の横にいる警官とおぼしき服装の男が俺に視線を向けて睨んできた。


「って、どう見ても本物の警官なんですが!」


「猥褻物陳列罪、及び強姦未遂罪の現行犯で逮捕する!!」


 警官が俺にそう宣言した後にものすごい形相で駆け寄ってきた。そうこうしている間に警察がどんどん俺に近付いてくる。俺は警官から追われながら、心で泣いていた。


 本当になんて、情けない人生だろうか。2度も人生を歩んでこれかよ。警官から逃げ切れたら、俺は自分の心を入れ替えてまじめに生きるぞ。そう心で誓いを立てて走り出す。


「待て、この犯罪者!」


「待てと言われて、待つやつがいるかよ。くそ姉貴め! 勝手に家を売りやがって、俺はリアル裸一貫からスタートだ!! しかも、警官に追われるしさ。最悪だ!!」


 2度目の人生なのにうまくはいかない。俺は心で唸りながらセントポーリアの街外れを駆け抜ける。これからの人生がうまく行く様に願いながら…

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