第9話 就活の幕引き
この街で最も栄えているセントポーリア3丁目の繁華街にある建物の中で俺は冒険者の集まりであるクランに入団するために面接試験を受けていた。
「葉っぱをパンツにしてるのか。野生児かよ」
そう俺を見ながら言ってきた。腹立たしい。俺だって好きでこんな格好をしている訳じゃない。
しかし、ここは就職試験を応援してくれたアイリのために我慢だ。我慢。
「さて、気を取り直して面接をするぞ。俺はこのゲイトクランの代表でアンドリューだ」
面接官の男はそう早口でまくしたてると俺を厳しめの表情で見てきた。さてと、どんな質問がくるのだろうか。
俺が待ち構えていると面接官のアンドリューから無難な質問が次から次へときた。なんだ。アンドリューの態度が酷いからとんでもない質問がくると思っていたら、思ったよりも普通だ。
「志望理由はなんだ?」
「俺は金が欲しいんだ。手っ取り早く仕事をしてガッポリ稼ぎたい」
「ははは、そりゃいいな。実にシンプルだ」
屈託ない笑顔で微笑んでやがる。どうやら、筋肉ムキムキな見た目どおりの脳筋やろうかもしれないな。
「ところで、待合室にいた女は精霊だったろ。お前は精霊使いなのか?」
ふてぶてしい態度でアンドリューがアイリについて尋ねてきた。さすが冒険者を束ねるクランの代表者だ。精霊が冒険に役立つかどうかチェックしたいのだろう。
「確かに彼女は精霊だ。だが、俺は使役などしていない」
「使役してないだと?つまり、道具か何かに憑依しているということでいいのか?」
「そう。俺が所有している腕輪に彼女は宿っているんだ」
俺がアイリについて説明をしていくとアンドリューの顔がどんどんイヤらしい笑みに変わっていく。
「なるほど。精霊は貴重だ。いいね」
色よい返事が貰えそうな前フリがきたな。
「ちょっと、その精霊を呼び出して見せてくれないか?」
俺が精霊を自由に扱えるか調べたいのだろうな。しかし、この表情はなんだろうか。イヤな予感がするな。俺の思い過ごしだと良いのだが。
「ちょっと、アイリ出てきてくれよ?」
俺がアイリを呼び出すように腕輪に話しかけると、
「なんじゃ。ぬしよ。今は面接中ではないか?わっちを呼び出してなにがしたいのじゃ?」
そう言って、アイリが腕輪から出てきた。
「ほう、美しい」
「じゃろ?わっちは奇麗じゃろ?ぬしはもっと褒める必要があるのじゃ!」
そう言って、アイリがこちら側を向いて自らを指差し、可愛らしく微笑む。
「俺様の好みだ。よし、その腕輪をくれるならば採用してやろう」
醜い顔の男はそう俺に言い放つ。お前の好みなんてだれも知りたくないわと思って、アンドリューを見ると奴はニヤニヤ笑いながら今夜が楽しみだという呟きが聞こえてきた。
この男は、なにを言っているんだ?今夜が楽しみだと。ふざけているのか!?これも圧迫面接の試験の一部だろうか?ひとまず、腕輪はやれないことを率直に伝えてみるか。
「腕輪は父の形見だ。あげることはできない」
「そう、固いことを言うなよ」
しつこいな。まさか、本当にこのアイリが宿っている腕輪が欲しいのか?でも、仮にそうだとしても普通は親の形見と言えば諦めるだろ。こうなったら、所有しても使えないことを説明して諦めて貰うしかないな。
「それに精霊が嫌がってるからあなたには使えないと思うぞ?」
「お前が使役してないんだろ。道具に宿っているだけならば俺でも使えるだろ?」
そう言って、アイリの腕を掴んで自分がいる席まで引き寄せる。
「な、なんじゃ。触るでない!」
「良いじゃネェか。減るもんじゃないし」
「ふざけるな。おぬしのような!」
そういって、アイリは面接官から手を払いのける。
「わっちに触るな。汚れるわ!」
「気が強いな。ますます、気に入ったぜ。もう一度、言うがその腕輪をくれるならば採用してやる!」
アンドリューは狂っているのか面接中に女を口説こうとしているのか。誰が親の形見をタダでくれてやるかよ。
「断るわ!」
「ぬしよ。そんなにわっちを手放したくないのか…」
そう言ってアイリが俺を見つめてきた。アイリ、勘違いするなよ。俺は別にアイリと離れたくないからそんなことを言っている訳じゃないんだぞ?
そんなことを思っていたが、アイリにそうも見つめられると照れくさいな。
「おまえらなに2人で通じ合ってんだよ。それにおまえはうちのクランで働きたいだろ?なら、その腕輪を譲れよ。良いだろ?」
そう言って、俺の返事も聞かないで腕輪をすばやく俺から抜き取り、自分の腕につける。腕輪が外れたことによって、アイリが消えるがアンドリューの腕に腕輪を装着するとすぐに彼女は現れた。
俺は余りにその動作が早かったため、反応ができなかった。流石にクランで頭を張ってるだけあって動きが機敏だ。って、感心している場合じゃない。目の前で人からモノを平気で盗むなよ!
「よし、召還できる。ご主人様の命令だ。俺様の膝の上に乗れ!」
「ぬしのようなモノを主人と認めぬ。だから、イヤじゃ」
アンドリューに命令されたアイリは取りつく島もないくらいにはっきりと拒絶した。
「ああ、腕輪の所有者は俺様だぞ?言うことを聞けよ!」
「さ、触るな。イヤじゃ。イヤじゃ」
アイリが俺に助けを求めているように見える。目から今にも涙が溢れそうになっている。
「なんだ?涙目になってやがる。よし、胸でも揉んでやるよ。気持ちよくてたまらないぞ?」
そう言って、アンドリューは腕をアイリに伸ばそうとした。俺はそれを見てこいつは本当にゲスだなと思わざる得なかった。
「ぬしよ。お願いじゃ。た、助けてたもれ!」
アイリからの助けを求める声を聞いて、俺の中で何かが切れたのを感じた。
もう、我慢がならない! 俺の腕輪を奪った上にアイリにまで、酷いことをしようとしやがって!! ふざけるな。
「この屑が!アイリから離れろ。この泥棒やろう!」
アイリに気を取られているアンドリューを俺は後ろから思いっきり殴り飛ばした。アンドリューは地面に頭から落ちて倒れ込む。痛さで悶絶しているようだ。
俺は、アンドリューが動けないのを確認するとすぐに腕輪を取り上げて、自らにつける。
「…ぬし。わっちのために。嬉しいのじゃ」
そう言って、アイリが満面の笑みを浮かべて俺を見てきた。俺がアイリに話しかけようとしていたら、後ろから物音がした。そして、振り向くとそこにはアンドリューが徐々に立ち上がる光景が見えた。
「げ、後ろから叩き付ける形で殴ったのに!」
「痛かったぞ?俺様を殴ってタダですむと思っているのか?」
俺はアンドリューが立ち上がる前に駆け足で逃げる。しかし、すぐに奴は俺とのまわいをつめて、剣をぬいてきりかかってきた。俺はそれをよけながら、窓際まで移動する。そして、窓を蹴破って外に…
ガラスが辺りに飛び散る。俺は窓を蹴破ったあと無事に着地。足にガラス片が少し刺さってるが、今は逃げることが優先だ。走ろう。
「お前、俺様のクランの窓をぶちやぶりやがったな!ゆるさん」
アンドリューの大声が後ろから聞こえてきた。後ろを振り向ことアンドリューが追いかけてくるのが見える。
「ぬしよ。逃げるのじゃ。わっちがあやつの足下に草を生やして足止めをするから」
アイリがそう言うとアンドリューに草木が絡み付く。
「俺様をこんな目にあわせるとは…。覚えていろよ!!」
足に絡み付いた草を剣で一生懸命に切っているが次から次へと生えてくる草にパニクっているのが遠目からでもわかる。
「俺はお前のことなんて、忘れるけどな」
俺はそう大声でアンドリューに嫌みたらしく言ってやった。
「頭にきた!公共職業斡旋所を出入り禁止にしてやる!!」
「やれよ。オカマバーやお前のような糞が頭になっているクランを紹介する公共職業斡旋所なんて出入り禁止になっても痛くもかゆくもないわ」
負け犬の遠吠えはかっこわるいと俺とアイリが大声で言い返したあとに俺たちは走ってクランから立ち去った。
ある程度の距離がゲイトクランの本部からできるとアイリがこちらに話しかけてきた。
「これで、就職は絶望てきじゃな?」
「…それは言わないでくれないか」
俺はアイリの言葉を聞いて気分が重くなった。これでまともな職につくことができなくなったな。…やばいは今頃、後悔してきたわ。
そんなことを思っていたらアイリが俺の顔をまじまじと見つめてきた後に、
「でも、ぬしよ。わっちは嬉しかったのじゃ」
「何がだ?」
「ありがとう。わっちを助けてくれて」
そういって、アイリは満面の笑みを浮かべて俺を見つめてきた。その笑顔を見ただけですべてがどうでも良いような気がした。
おかしなものかも知れないがこの精霊の愛らしい微笑みを見ると心が暖かくなる。アイリは人間じゃなくて、精霊なのに…
そんなことを俺が考えていると、
「なんて、わっちが言うと思ったのかの?あやつに使われているよりか、幾分かはぬしといた方がよかっただけじゃからな」
先ほどまでの殊勝な態度とは打って変わって、刺のある言い方だ。
「なんだよ。俺の方が幾分か良いだと?どういう意味だよ」
「だって、ぬしよ。わっちは葉っぱパンツを履くような変態に使われておるんじゃよ? 誰が見ても大変哀れであろう?」
「言い返せないのが辛すぎる!!」
前言撤回だ。俺の中にできていた温かい気持ちは気のせいだ。こいつは俺をからかって遊んでやがったのだ。
俺とアイリはそんなくだらないやり取りをしながら、寝床である広野に帰っていた。
その後、アンドリューを殴った俺は公共職業安定所から出入り禁止を言い渡されて就職の斡旋を受けることができなくなった。
俺自身は公共職業安定所の措置に納得していた。だって、仕方ないよね。自業自得だからな。でも、俺はアイリを守れたので後悔は欠片も感じなかった。




