表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
WILD SKY~彼らを繋ぐ世界の空~  作者: 立花 佑
第二話~悲しみの向こうに~
9/61

4.

五十機のスピリッチャーと特殊戦闘機ディウアースが晴れ渡った虚空へと飛び出した。

 コックピットを囲む超強化防弾ガラスの向こうに、ノアは仲間たちの勇士を肉眼で確認した。

「敵の状況は」

「以前侵攻中です。敵スピリッチャーの数はおよそ五十。特にこれといった信号はありませんね、というか少ないですね」

 うーんとクロムは腕を組んで小さく唸った。

 空域図上に、スピリッチャーの飛行位置を示すラインが点滅した。すると、第二艦隊から発進されたスピリッチャーのラインが、山脈を回り込み始めた。

「第二艦から合図があるまで、我々はお見合いってことかぁ」

 物足りなさそうに、シェンナは背もたれに体重をかけて、天井を呑気に仰いだ。

 だが斜め前のデスクで、アモン艦長は太い眉根を密かに寄せた。

「残存部隊、上下に別れて距離を取り、機体を前後に重ならぬよう配列……」

訝しげなアモン艦長の独り言の最中に、オペレーターが割れんばかりの声で叫んだ。

「艦長ッ、敵スピリッチャーから撃墜弾が発射されました、実弾です!」

「衝撃波除去フィールドも作動させています」

 一瞬、コックピット内は凍りついた。

「通常のレーダーでは無反応だ、スピリッチャーに緊急回避!」

 突発的にデスクを叩いたアモン艦長が声を上げた。

「間に合いません!」

 天空は爆炎に包まれ、一時コックピット内は騒然と静まった。

「スピリッチャーに直撃。被害多数!」

「急いで被害状況を確認しろ、動ける機体も即時離脱だ! 迂闊だった」

 普段穏やかなアモン艦長からは想像もできないような、猛然と震えた声が低く。

 コックピットの前方には爆炎が広がっていた。

「整備班はケージへ急げ! 救助船を向かわせろ」

「撃墜されたスピリッチャーを探せ、一機も見逃すな!」

 クロムとシェンナの指示によって、オペレーターたちは嵐のように駆け回った。

「ディウはどうなってるの!」

 言葉を失っていたノアは、ハッと我に返ってオペレーターに飛付いた。

「ディウアースも被弾してます、八十パーセントの乱流を測定しました」

 全身から血の気が引くのが分かった。

 ヴレイを助けたい、この命に代えてでも助けたい、なのに思考は空回りをして、判断を鈍らせた。

 焦る気持ちが手足に伝わって、抑えられないほど震えた。

「ヴレイ――、このままじゃまずい、離脱命令を出して!」

「は、はい」とオペレーターは声を震わせていた。

「外部装甲盤が五十パーセント焼失、妖源動力エンジンが破損し、稼動レベルが危険域です。搭載飛行機の第一、第三エンジンが破損、飛行に影響が出ます」

 オペレーターはモニターに表示されたデータを言い放つ。

「パイロットの頭部から出血しています、このまま乱流を続けさせては命に危険が!」

「なら鎮静プログラムを送って!」

 焦燥が声に剣を含ませた。

「乱流に影響され自動防御が強力に展開されています、そのため鎮静剤の効果がありません」

「それどころか、妖源動力の稼働率が上昇しています」

 非常にマズイ展開だ。

冷静さを取り戻せなくなっていたノアは、解決策を導き出せなくなっていた。

 空域図に写っていた一つの機体のラインが、とんでもない速さで敵スピリッチャーに突っ込んだ。

「搭載飛行機の反応プログラムが書き換えられています!」

 こんなの見たことがないといった感じで、オペレーター声は戦慄していた。

中央モニターには、相手がディウアースの動きに反応する前に、近接戦闘で仕留められている構図が、映し出されていた。

「ディウアースの反応速度まで書き換えよって」

 アモン艦長の言葉に、ノアは一歩遅れてブリッジを見上げた。

 微塵の動揺も感じさせないディウアースの戦闘力に、誰もが言葉を失う。

殺戮にも似た光景に戦慄する者さえいた。

あちらこちらで、爆発が起きては戦闘機が無残に廃棄物と化す。

「敵スピリッチャーの数が四十パーセント減少」

「メインダグの一部が破損しているため、ディウアースの稼動領域が限界にきています、このままでは連動している搭載機の出力も落ちてしまいます」

 震える鼓動だけがノアを支配した。思考回路の歯車が空回りを起こしている。

その時、間髪入れずにアモン艦長が技術部のクロムに怒鳴った。

「搭載機に強制帰還コードを組み込んだデータを送信しろ」

「データを向こうで受信するには、自動防壁を解除しなくてはいけません、解除に少々時間が掛かります」

「なら急げ!」

「分かりました。では僕がコードを作ります、シェンナさんは防壁の解除をお願いします」

「了解! さっさと片付けちまうぜ!」

 指の関節をバキバキ鳴らしたシェンナは物凄い速さでキーボードを打ちまくった。

『こちら第四ケージ! 人手が足りない、人員を要請する!』

 声の背後から聞こえた雑音からして、ケージは戦場と化している。

「シェルトリー二佐、どうしますか」

 呼ばれてやっとノアは「あっ」と我に返った。

「各部の手が空いている者はケージへ回って。アモン艦長! 私もケージに行ってきます!」

 クルッとノアは踵を返した。

 こんな時にぼーっとしてるなんて、それなら現場に行って、私ができることをすればいい。

「分かった、ケージの指揮を頼む」

「了解!」

 髪を翻したノアはオペレーターブリッジから早足で飛び出した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ