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WILD SKY~彼らを繋ぐ世界の空~  作者: 立花 佑
第二話~悲しみの向こうに~
7/61

2.

 ノアが息を切らしてコックピットに到着した時には、中央モニターに写る空域図に敵艦を示すラインが点滅していた。

「信号受信後に敵艦を感知、領域内に侵入しました」

 オペレーターの一人がモニターを見ながら答えた。

「それで敵艦の進行状況は」

「はい。南南西から進行中、このままでいけば三時間後には境界線まで到達しそうな勢いです」

「まだ様子見か、本部の司令室から連絡は」

 間髪入れずにノアは機敏に訊き返す。

「準備ができ次第発進せよと」

「りょーかい、高度一万五千メートル、方位は送信される座標に固定、その場にて待機せよ」

 中央モニターを見上げるノアは腕を組んで、大きく深呼吸した。気分を落ち着かせるには、一番効果的だ。

 周りが慌ただしい中、コックピットの階上にある中央ブリッジのドアが開いた。

中央ブリッジに席を置く者は三人だけ。確認しなくとも、誰が飛び込んできたかぐらい分かる。

「遅い、二人とも! 作戦部の一佐と、技術部の一佐が遅れてどうする!」

 階下のオペレーター専用ブリッジで仁王立ちするノアは、二人を一瞥した。

 やはり、作戦部一佐のシェンナと、技術部一佐のクロムだった。まぁ、二人も文句なしの早い到着なのだが、二人以上にノアの到着が早いので仕方ない。

 ギクリと肩を震わせたクロムに反して、シェンナは「よぉ」と飄々と手を振り返した。

「シェルトリー二佐、随分と早い到着だったんですね」

 ノアのご機嫌伺いをしながらいそいそと、クロムは自分のデスクに就いた。のんびりとしたシェンナもやっとデスクに就く。

 ったく、と呆れる最中、またブリッジのドアが開いた。

「相変わらず快活だな二佐、君がいれば私がいる必要はないなぁ、楽できるってもんだ」

 満足げにほくそ笑んだアモン艦長は、重みのある靴で床を踏み進め、自分の席に滑り降りた。

 司令塔として、床が丸くくぼんだデスクが高台のブリッジには三席設けられている。

 中央ブリッジの両側には階下へ通じる階段があり、ノアが統率するオペレーター専用のブリッジになっていた。

「艦長、境界域に動力反応を感知、駆逐艦クラスです」

 鋭い目じりでアモン艦長を見上げるノアは、相手が艦長だからと言って容赦はしない。

 アモン艦長は不敵に口端を吊り上げて指示を下す。

「準備ができ次第、艦を上げろ、防衛システムのバックフィールドの誤差修正は」

「修正完了しています。通常展開します」

 デスクで作業を始めていたクロムが的確に答えた。

「シェルトリー二佐、スピリッチャー隊に発艦準備を指示しておけ、指示があるまで待機だ。ディウアースには最終確認を急がせろ」

 低い声色が剣呑を帯びて放たれた。

 アモンの真剣さの度合いは口調で直ぐに分かる。中年の割に、子供のように感情を表に出す男だ。

「了解!」

 間髪入れずにノアは返事をした。

「滑走路位置に固定完了、総員発進に備えてください、地下ケージから発進します」

 金茶色の髪が印象的なクロムが艦内放送で注意を促す。

 階下で動き回っていたノアも、補助席を取り出して座り、腰にベルトを装着した。

船尾から低い駆動音が地鳴りのように響くと、背中を強く押された。

上からも圧せられたが、直ぐ元に戻った。

上空に艦が浮上すると、コックピットの天井ガラスを覆っていた外装が開かれた。

碧空が視界いっぱいに広がり、彼方には薄っすらと雪をかぶった山脈の稜線まで眺望できた。透き通るような虚空をバックに、空域図がモニターされた。

 ベルトを外して席から立ち上がったノアは、すぐさまオペレーターに歩み寄った。

「で、敵艦の分析結果は」

 ノアが訊ねると、女性オペレーターが即座に答えた。

「まだデータ不足ですが、アレクド国連軍の旧第一艦です」

「アレクド、あそこにはギール大佐がいたはず、エルゼール国出身の元統合軍中佐。次のアレクド後継者は彼だと言われているほどの実力者だ」

「よく知っているなぁ、シェルトリー二佐」

 頭の後ろで手を組んだシェンナが、少々悔しげにフンと鼻で笑った。

「これは基本的な情報だ。しかし艦長、アレクドの狙いは何でしょう」

 真面目なノアの返答に、シェンナはつまらなそうに舌打ちをした。

「どうやら水面下で再起動の準備をしていたのだろうな。前回は決起の映像をギールが直接配信してきたほどだ」

 眼前のモニターに映る空域図を見上げながら、アモンは太い眉根を寄せて答えた。過去を懐かしむように、いちいち頷きながら。

「で今回は奇襲ですかね。苦労して結んだ開発協力の契約は何だったんですかね」

 眉根を憮然に寄せるクロムは、アララと他人事のように飄々と笑った。

だがクロム以上に、含み笑いを浮かべたのはアモン艦長だった。

「エルゼール国の旧第一艦が妖源動力システムにあっ気なく掌握されたのが、さぞかし悔しかったんだろ。開発を援助されたところで、オリジナルのようにはいかないと気付いたんだろうな」

 つまり、ヴレイのように『妖源力』を持った人間がいても、特殊(・・)さを持ち合わせてなければ、オリジナルのようにはならないと、アモン艦長の言葉はそこまで意味を含めているとノアは理解した。

「つまりエルゼールの旧第一艦と同じく、ディウアースの妖源動力が目的という可能性がありますね、艦に導入すれば高度な戦闘が可能にますから」

「あるいは、破壊かだ」

 アモン艦長が放った言葉に、クロムとシェンナは唖然と目を見開いて、信じられないような目付きでアモン艦長を直視した。

 さほど驚くことではない、ノアの計算では予想される範囲内だった。

 アレクド国といい、エルゼール国といい、ディウアースを真似て戦闘機を開発する国々は多々ある。『妖源力』という特殊能力が必要となれば、ジルニクス国の妖源動力をモデルに独自開発を選択するのが一般的だ。

だが、何を血迷ったか、中には欲しい物が手に入らないからといって、手っ取り早く消してしまおうと考える輩が存在する。

「虎視眈々と狙っていたのは事実だったようだ」

 全てを見切ったような口調でアモン艦長は言い放つ。

 沸々と眉間に皺を寄せたノアは、カツッとヒールの音を響かせて振り向き、声を張り上げた。

「これは明らかに敵対行動です、私に作戦があります」

「評議会が干与する前に税金が消費されそうだな、スピリッチャーがなかったらこうはいかんな、二佐のやり方を薦める」

「わお、一佐の俺を飛び越して。そりゃまぁ、見ものだな」

 シェンナが頭の後ろで手を組んで、どこか不満そうに見下した。

 挑戦的な笑みをアモン艦長に向けたノアは、前方の中央モニターを見上げて勇ましく指示を仰いだ。

「部隊は送信した座標に戦闘配置。電子防壁は通常展開、緊急回避に備え対空衝撃弾を三十パーセント稼動開始」

 オペレーターが一斉に作業を開始した。

「今日のシェルトリー二佐は、いつも以上に覇気がありますね、いいことでもあったんですか」

 女性オペレーターがフフッと上品に笑った。

「まあねぇ、って今は仕事中なんだから!」

 パチパチとノアは自分の頬を軽く叩いて、気合を入れた。


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