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WILD SKY~彼らを繋ぐ世界の空~  作者: 立花 佑
第十二話~世界の空が明日を迎える日~
54/61

1.

 ロマノの首都イーバルの空港に初めて降り立ったルピナは、うわぁと思わず歓声を漏らした。

 フレイヤのジェムナス空港も指折りに誇る規模だが、イーバルは桁違いだった。

 一つの山がまるまる空港と化していた。山の内部がそいっくりそのまま刳り抜かれ、内壁には建物がビッシリ張り付いていた。

 わんぐりした渓谷には、建造物が針山のように密集していた。その建造物群の中央には、一際巨大な建物が天を貫いていた。よくよく見ると、その建物から飛行船が吐き出されたり、吸収されたりしている。やたらに巨大な建物が主な飛行場になっているようだ。

大小さまざまな飛行船が渓谷の中で飛び交っていた。空中で交通事故が起きたら大惨事間違いなしだ。

「すごいな、ここの空港は」

 ヴレイが向かいの席で窓の外を眺めながら、景色に釘付けになっていた。

 意外とスッとした鼻筋なんだ、あ、睫毛長い、ていうかよく見るとキレイな横顔、などとルピナはぼんやり見惚れていた。

 視線に気付かれて「ん、なに」とヴレイに不振がられた。

「な、なんでもない。こんな空港にシリウスたちが本当に迎えに来てるのかな? ていうか、どこに行けばいいのよ」

「降りたら、端末に連絡してみるよ」

「う、うん」とあからさまにぎこちない返事をしてしまった。

 思えばシルベーム行の船で出会ってから、ヴレイのことが気になっていた。気になるから、苛ついていた。視界に入れば、ヴレイの視線が気になった。

 意識している自分に苛ついて、わざとヴレイとケンカになるような科白を言ったりして、今までの出来事を思い返したルピナはフフッと軽く拭き出した。

「なんか笑ったか? ていうかさっきからどうした、何か変だぞお前」

「失礼ね、ちょっと思い出し笑い。ねえ、ヴレイ」

「だから、なんだよ」

 ヴレイは「ん?」と軽く首を傾げて、真っ直ぐ見つめてくる。

 本当はあの(・・)()、何を話しているのか気になって、ヴレイとガディルの話を立ち聞きしていた。

 ヴレイが支部に帰ると言ってくるだろうと、覚悟はしていた。予期していたからこそ、子供みたいに駄々をこねて、ヴレイを困らせてやりたかった。

 案の定、ヴレイは困っていた。

「ごめん、ここまでありがとね」

「何だよ急に、そんなに素直に礼とか言われたら、辛気臭くなるだろ」

 情けなく笑顔をほころばせたヴレイが、ルピナの胸の前で光を反射させる金の輪に、視線を落とした。

「なくすなよー、次会った時になくしてたら、弁償な」

「はぁ、自分で自分の物を弁償って、わけ分かんない」

 怒っていたつもりが、文句をぶつけると目頭が熱くなって、泣き笑い状態になった。

 次会った時、とか言っておいて、次があるのかもわからないくせに。

 飛行船が指定されたドックに入るまで、ほとんどしゃべらずに二人で到着を待った。

 他の乗客たちと一緒に飛行船を下りると、空港内は人でごった返していた。

先ずは地上への下り方を、とんでもなく大きな案内図で調べた。

「シリウスと連絡取れたぞ、一階の正面入り口で待ってるって。俺は、もう直ぐ出るフレイヤ行の飛行船に乗るよ、せっかくここまで来たのにな。気を付けろよ」

 ヴレイが黒い手袋をはめた手を差し出して、握手を求めてきた。

「うん。そっちもね」とルピナはヴレイの手を取った。

 ギュッと握り返してくれた嬉しさで、ルピナの鼓動は勝手に小躍りした。

 どちらともなく手を離し、人が右往左往する中で、言葉無く向き合った。

「ほら、早くいきなさいよ、もう直ぐ船出るんでしょ」

「まあな、ルピナが先に行けよ、見えなくなるまで見送ってやるから」

 シッシと虫を払うようにヴレイは掌を振った。払い方に苛つく。

「いいわよ! 見送らなくて、先に行って、ほらッ」

 ヴレイの胸を叩くように思いっきり押した。

「ぐほッ!」と唇を尖らせて噴き出したヴレイは、咳き込みながら悶えた。通り過ぎる人々は何事だと、ご親切に視線を配ってくれた。

まさか、アレか? やっちゃった感じ?

「お、お前、アホが……ミゾオチ、だぞ……、ゲッホッ、ゲッホッ」

「ご、ごめん、ちょっと間違えた、エヘヘヘ、大丈夫?」

 やっと呼吸を落ち着かせたヴレイはげんなりと青ざめていた。

「エヘじゃない、まったく、最後の最後まで、ほら! 行け!」

 突然、両肩を掴まれて、くるっと反対を向けさせられた。ヴレイの両手がギュッと強く肩を握ってきた。熱い手にルピナは自分の手を重ねた。

 一歩、ヴレイが近づいた。真後ろから、ほのかに体温を感じる。

「ヴレイ」

「ん?」

 一緒にいた時間は決して長くはない、長くない時間の中で初めて、通じ合えたような気がした。じんわり目頭が熱くなる、振り向けばきっと零れてしまいそうだから、振り向かない。

「じゃあ、またね」

「おう、またな」

 耳より少し上から降ってきた声と、ヴレイの体温を、記憶に焼き付ける。

手を離して、ルピナは一歩を踏み出した。あっという間に人込みに流される、地図で確認したとおりにルピナは地上を目指した。

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