5.
玉座の間は円柱の形をしている。八本の柱で支えられた天井は、球を半分に割ったように弧を描いていた。
深紅の厚いカーテンは柱の隅に束ねられ、壁の全面が分厚いガラス張りになっているので、城下町を三百六十度眺望することができる。
東側にゼノレフ国の大山脈、北側にドナ海の水平線まで見渡せる。フレイヤを治めてきた先代の王達はここから国の行く末を見つめ、統治の有り方を見極め続けてきた。
ジラ王は街に表を向けたまま、ガディルを迎えた。
「手紙でも綴ったように、ルピナに身を固める決意をさせてほしい。あのじゃじゃや馬娘を大人しくさせることができるのは、そなただけだ」
表を向けて、「頼む」とジラ王は頭を下げた。
「お気持ちは嬉しいです、できれば私もそうしたいと望んでいます。しかし、ルピナ王女はそれを望んでいないと思います。まだまだやりたいことがあるんじゃないでしょうか」
精悍に言い放つガディルは太い眉根を寄せていた。
「ルピナをまた旅に出させていいものか考えていた。あいつのやりたい事はやらせてやりたい、だが将来この国を背負っていく人間だ。学業も政も、学ばなければならないことが、まだ山ほどあるのだ」
玉座に歩み寄って、ドスッと腰を落とした。
「なら尚更、私との結婚は早いのでは。身を固めることで、ルピナ王女が苦しんでは元も子もありません。ルピナの気持ちがないまま、私は彼女と結婚する気はありません。申し訳ございません」
「そうか。そこまで言うなら仕方ない。ルピナを大切に想ってくれている気持ちは、私より強いようだな」
頭を下げるガディルを、ジラ王は我が子同然のように見据える。
「私からいうのもなんですが。ルピナ王女の国外外出許可を解除されてはどうでしょう。申したように、ルピナがやりたいこともできない姿を見るのは、私も苦しい。そこで、許可を御認めになり、私もルピナの護衛としてお供します」
「ガディル王子が、ルピナの護衛に?」
まさかの提案に、ジラ王は返す言葉を直ぐには見つけられなかった。
低く唸ったジラ王は「ならば」と口を開いた。
「条件がある」




