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WILD SKY~彼らを繋ぐ世界の空~  作者: 立花 佑
第八話~新王に残された選択~
35/61

4.

 王軍の参謀が飛獣に跨り、連合軍に対して、戦う意思はないことを表明した。

 連合軍もルベンスの意志に応じ、ノイゼストへと後退し、事態は収束した。

 戦艦がドックへ戻されると、各部署の隊員たちが一斉に動き出し、各々仕事を始めた。

 ヴレイは人込みを掻き分けながらザイドを探すが、頭一つ高い長身を見つけられなかった。

「どこに行ったんだよ」

 気持ちが焦る。まだ訊きたいことは山ほどあったのに。

きょろきょろ見回していると、鱗粉にまみれた子馬が突然ヴレイの前に現れた。

 鱗粉の集合体でできた子馬が蹄で地面を蹴る真似をすると。

「私はノイゼストにいます。ロインとルピナは連合軍と共にいるようです」

 シリウスの声が直接頭の中から聞こえると、コロッセオが眼前に投影された。

「こりゃ携帯端末なんていらないじゃん。便利な機能だな」

 憮然と鼻で笑ったヴレイは、ぽんと手を叩いた。

「そうか、統括室に行けばいいのか」

 早速、ドックを出て、軍施設の迷宮のような回廊に出た。殺風景な回廊に軍服を身に纏った兵士やら、制服を纏わない傭兵やらが闊歩している光景を見て思った。

 統括室ってどこですかぁー。

 途方に暮れていると、「おい、ヴレイ」と後ろから呼ばれてハッと振り返った。

「ザイド! 良かった! もう一生会えないかと」

「はぁ? 何言ってんだよ、大げさだな。そんな所で突っ立って、何してんだ」

 首を傾げるザイドはさっさと歩き出そうとしていた。

「あのさ、俺、今からノイゼストに行ってくる。その後は、もうここには戻らない、ザイドはどうするんだ、ロマノに戻るのか?」

 歩き始めたザイドを追い駆けながら、不安に追い立てられるような気がしてならない。

「おそらくな、直ぐにじゃないだろうけど。ルベンスは執政官の座から退くだろうし、となれば政策もシルバーム本来の鉱物発掘にシフトするだろう。元々、鉱物の産出国だから、金はあったんだろ」

「軍拡の理由は、ロマノ国と対等の国力を持ちたかったからか?」

「そんなとこだろうな。おそらくロマノ王が、機械化に興味を持っていたルベンスを引き入れたんだろ。ルベンスの生家は鉱物掘削機械の開発に代々携わっていた。生まれながらに地位も財産もある。機械化を進めたいなら、政界の頂点になっちまうのが手っ取り早いからな」

 ま、どうでもいいけどな、みたいな感じの力が抜けたような話し方だ。

「ルベンスを引き入れて、ロマノ王は何がしたいんだ。それにさっき言ってた、「世界の空」とか「宝珠」とか、ロインを必要としているとか、何のことだ」

 任務上、ヴレイとしてはロマノの思惑のほうが気になった。だがしくこく嗅ぎ回れば、ザイドは嫌がって、煙のように消えてしまうのではないかと思った。

「ああー、あれか。お前、セイヴァの人間だろ? だから話せない」

「ザイドにロマノ王に対しての忠誠心があったなんてな。せめてロインは巻き込むな、まだ子供だぞ」

 広い背中を追い駆ける光景は、昔も今も変わらない、いつだってザイドの背中を追い駆けていた。でも追い駆けることで安心できた、ヴレイの居場所だった。

「まだガキっていっても、王位継承可能な年齢だ。最終判断はロインに委ねた」

「それでも……、ザイド、昔はそういう奴じゃなかった」

 村の記憶はまだ多くは思い出せていないが、ザイドの記憶は多くを取り戻しつつあった。

「昔の俺をお前がどこまで知ってるのかは知らねーが、今は今だ、お前の我がままに付き合ってる暇なんてねーんだよ」

「なんだよそれ」どうしてケンカになるんだよ。険悪になる理由がわからない。

 他にも話したいことがあるのに、焦ってなかなか言葉が出てこない。何を気にして躊躇しているのかヴレイ自身にも分からなかった。

「じゃあ、九年前、村で何があったのか、知りたいんだ。俺の手の傷はおそらくその時に受けたものだろうし、ヴァジティス村がどうして魔獣に襲われたのか、どうしても違和感があるんだ。お袋の最期も知りたい」

 ヴレイは歩みを止めて、憤りをザイドにぶつけた。

 二、三歩先で足を止めたザイドはやや後ろを見つつ、なかなか答えなかった。

「今ここで、全部話している時間はないだろ。村へ行け。俺はもう九年前のことはどうでもいいんだ。知りたいなら村へ行け」

 唐突に突き放された気がして、ヴレイは足を止めたまま悄然さを握りしめた。

 ザイドにとっても辛い過去だったのかもしれないが、怒りの矛先がこちらに向けられたような気がした。

「リウドが村にいるはずだ。祭司兼学者やってる」

「よかった、リウドも無事だったんだ。あ、携帯端末持ってるか? 連絡先を交換しておこうぜ、何かあった時に連絡できるように」

「え、あー」とザイドは一瞬困ったような顔をしたが、「ああ」と返事をして上着の内ポケットから端末を出した。

 連絡先を交換すると「じゃあな」とザイドはあっさり手を振って、回廊を歩いて行った。

歯痒さを口の中で押し込め、ヴレイは行くべき場所へと歩みを再開した。

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