1.
鱗粉を纏った馬のような動物が空から駆けてきた。
コロッセオの表舞台ではなく、内側の中庭にいたルピナとロインは、現れたものに息を呑んだ。
周りにいた連合兵たちも何事かと、獲物を持って身構えた。
静かに降り立った馬はルピナとロインの前で、頭を下げた。
『ヴレイからの伝言です。戦艦への潜入に成功、ルベンスは三日後、ノイゼストに集結する連合軍を討伐しに掛かる。ロインとルピナは前線に出ぬように』
何重もの声音によって、棒読みされた。伝言を届け終わった馬はその場で粒子となって、風に吹かれて消えた。
「今のは『妖源力』によって作られた幻獣だ」
「三日後って言ってたわね、あいつ、本当にシルバームに潜入したんだ。でも戦艦に潜入してどうするのかしら」
膝下ぐらいの高さの花壇にルピナは軽く腰掛けて、腕を組んだ。
「僕にも見当がつかない。三日後か、取り合えず皆に伝えてくるよ」
ロインは将校たちがいる二階待合室へと歩いて行った。
突然現れて、突然消えた人。消えたわけではない、ちゃんと説明した上で別行動をとったのだから。まるで、夢みたいな人だ、現実にいるのにまるでいなかったみたいに。
同じ空の下にいるのに、ノイゼストと首都は目と鼻の先ほど近いのに、ヴレイはどこか遠くにいるみたいだ。
何を見て、誰といて、どうしているのだろうか。何も知らないから、知りたくなる。
結局、連合軍には参加しないと分かって、しょ気ている自分に気付く。チッと小さく舌打ちをしたルピナはパンパンと頬を叩いた。
「しっかりするのよ、私! あんな奴、どうだっていいじゃない」
自分を叱咤させるだけ、バカバカしくなり、あーあと空を仰いだ。




