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WILD SKY~彼らを繋ぐ世界の空~  作者: 立花 佑
第七話~懐かしさの面影~
30/61

3.

 ルベンスの部屋を後にした三人は、同時に深呼吸をした。

 ザイドを先頭に、来た回廊を戻って行く。足音だけが、静かに回廊に反響する。

「さっき、パーツの仕入れを邪魔すると言っていたが、本当にやるつもりだったのか?」

 先頭を歩くザイドが剣呑な声色で訊いてきた。

「いや、そんなつもりもないし、パーツの仕入れ先なんて知らない。ルベンスに鎌かけてみただけだ。意外と焦ってたとこを見ると、また面倒くさそうな匂いがするぜ」

 やれやれとヴレイは肩を撫で下げて、上着のポケットに手を突っ込んだ。

「変わったな、お前」

 辛気臭く鼻で笑ったザイドがぽろっと落とした言葉に、五年前の面影が見えた。

 ザイドは四つ年上だったから、二十二歳ぐらいか。出会った時からザイドの方が、背は高かったが、ますます差を付けられた気がする。

「そういうザイドだって、変わっただろ」

 懐かしさを感じて、ヴレイは単純に嬉しくなった。

「そりゃそうだよな、もう五年前だもんな。どこで何してるかと思えば、お前が軍人とはな。昔は、ビービ―鳴くだけのガキがさ」

「しょうがないだろ! 四歳も離れてるんだから、力の差は歴然なのに、お前が遠慮なく殴ってくるからだぞ!」

 ザイドの背中を殴ってやりたいぐらいだが、政界区画なので大人しく歩くだけに留めた。

「そういうザイドだって、軍人してるじゃん。しかもロマノからの派遣兵だって――」

 咄嗟にヴレイは口を押えた。

「どうして、そのこと知ってる」

 足を止めたザイドは、従いてきていたヴレイを怪訝に見下ろした。

 思いっきり口が滑った。いや、ロインがザイドと知り合いと言っていたんだ、悪いタイミングではない。

「ロインと知り合いなんだろ。どうして知り合いかは知らないけど、ロインがザイドに合えば潜入が上手くいくだろうって」

「ああ、なるほどな。ロインもノイゼストにいるのか?」

「向かうとは言ってたな。連合軍に協力するって、いくら護衛されてるからって、何かあったら、それこそ最悪だ。いろんな意味で」

 ズボンのポケットに手を突っ込んだヴレイは、特にルピナを思い出して苛立った。

「逆に好都合だ。ルベンスはロインに手を出せないだろうから。出せないはずだ」

「は? どうして。俺にも教えろよ! 無視すんな!」

意地でも聞き出してやろうと思ったが、何も答えてくれない。

勝気に鼻で笑ったザイドは、歩みを再開した。行とは打って変わって、悠長な歩みだった。

 回廊の大窓から射し込む陽が薄くなった。流れてきた曇が太陽を隠し始めた。

「やっぱお前変わってねえ。お前とはつくづく腐れ縁だな。二度も再会するなんてな」

「二度? 一度の間違いだろ、今日、初めて再会したんだから。何言ってんだよ」

 久しぶりに勝った気がして、ヴレイは鼻でハンっと笑い返した。

「は? お前こそ記憶力ヤバいんじゃねーの、「アゲハ」の時と、今日だろ」

「え?」とヴレイは険しく眉間を歪めた。

「ちょっと、何なんですか、君たちの会話は。聞いているこっちがもどかしいですよ」

 一歩引いて立ち尽くしていたシリウスが、所在無さ気に渋っていた。

「それは俺の科白だよ。だから、どうして「アゲハ」の時に再会になるんだよ、「アゲハ」の時に初めて会ったんだろ? 俺たち――、エ?」

 一瞬空気が凍りついたような気がした。

「……マジかよ、お前」

 愕然としたザイドの表情は、今まで見たこともない蒼白さで、口を半開きにさせた。

 只事じゃなさそうな神妙さに、訳が分からずヴレイは身震いした。

 不気味な悪寒が全身を駆け巡った。

「な、何が? そんなに驚かなくても、ザイド、俺、変なこと、いっ――」

 言ってる途中で、ガシッと両肩を掴まれた。

「俺たち同じ村で暮らしてただろ! 村は丸焦げになったけど、リウドからヴレイは無事だって聞いて、どれだけ安心したか。まぁ、俺はその後、村を出たけどな」

 なん、だって、あの(・・)()に暮らしていた、俺とザイドが?

「一緒に、暮らしてた? 確かに、俺が住んでた村は、魔獣に襲われて……」

 息が止まるように、言葉が止まる。

 目の前にあるザイドの双眸を見つめながらも、意識は過去の記憶を探っていた。

 そうだ、ソラと精神科医から記憶は無理に思い出さないほうが良いと言われていて、でも何かが見えそうで、見えない。掴もうとしても、ふと風に舞って消えてしまうみたいに。

「村は魔獣にも襲われたが、本当は……、あの晩の事も覚えてないのか?」

「あの晩は、真っ暗で、でも周りに火があって、そうだ、……リ、リウドが助けて、くれて。でも俺は、母さんとザイドのことが心配で、戻ろうとしたけど――ッ、頭が、頭が痛い」

 突如、頭蓋骨の内側から、トンカチでカチ割られるかと思うぐらいの、頭痛に襲われた。

ヴレイは頭を抱えて、その場に立っていられなくなった。

「大丈夫ですか! ヴレイ、意識をしっかり!」

「う、ううぅ、頭が、頭が割れそうだッ、ザイド、たすけ――」

「大丈夫か! ヴレイ! しっかりしろ、ヴレイッ」

 何度も名前を呼ばれたが、意識が遠のき、声が出せなくなった。

何とかザイドの腕にしがみ付いたが、究極の睡魔に襲われるように、ヴレイはその場に昏倒した。

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