2.
有無を言わさず半強制的に連行されたヴレイは総司令執務室で、唐突に父親と再会した。
喜ばしい親子の再会とは無縁の、重力を感じるかのような、重い空気だった。
約三年間、野放しにされた過去を今更どうこう文句をぶつける気はないが、素直に喜べない自分がいた。
「アゲハ」のアジトに迎えが来たってことは、居場所は把握していたのだ。余計に虫唾が走る。
「元気そうだな。『妖源力』は制御できるようになったんだろ」
先に沈黙を破ったのは父親の方だった。
黒レンズの眼鏡をかけた男の姿に、ヴレイは父親と言う認識を持てずにいた。
「一応、だけど」どうしてそんなことまで、ずっと見張られていた?
「自ら出て行ったお前を無理に連れ戻したわけではない、お前にはここでやるべき事があるから呼んだまでだ」
父親の言葉はあまりにも傲然としていて、目の前の人物だけには逆らえないことを本能的に感じさせる。
「やるべき事って」
嫌な緊張で、喉が渇いて掠れたような声になった。
微動にしない威厳さが昂然と人を見下している。その視線に萎縮するヴレイは気付かれないように生唾を飲み込んだ。見えない巨大な手で、体を締め付けられているような窮屈感だ。
父親の存在に重圧を感じていたヴレイにとって彼の元に引き戻されることは、悔しさより屈辱的な感情の方が強かった。
「第一艦隊スピリッチャー隊所属、ディウアース専属パイロットに任命する」
平然と言い放った言葉をヴレイは理解できていないまま、総司令長官は続きを話す。
「始めは三週間交代で各部の研修を行い、その後スピリッチャーとディウアースの訓練を行う。試験を経た後、正式なパイロットに任命される。尚お前には各学科の講師を付ける、何故か分るな、学校教育が足りないからだ。最低限の単位は取ってもらう、そうでなければ話しにならない」
選択の余地はない、と言ってるような冷徹な口調だった。
「さっきも言ったが、お前には『妖源力』が備わっている、もちろん知ってるな」
ドクッと鼓動が高鳴った。
腿の横にぴったり付けていた左手を軽く握った。
「知ってる、それと入隊にどう関係してるの?」
「『妖源力』を動力源とする搭乗型の戦闘機、ディウアースに乗れるのはお前だけだ。妖源動力システムはうちにしかないシステムだ。だからお前を呼び戻した。それを知った上で入隊するか否か、今決めろ。それとも「アゲハ」に戻るか?」
驚愕でもあったが、言われた言葉が脳内でうまく処理できない。
決めろと言われても断る動機もなかったヴレイは必然的に受け入れるしかなかった。
「分かりました。乗ります」
「必要なものはすべて寮に運ばせる。何か質問は」
唾で喉をうるおし、唇を舐めてから口を開いた。
「俺には、他にやりたい事があるんです」
数秒してから父親の眼鏡が上を向いて、続きの言葉に耳を貸しているようだった。
「村の皆と、母さんの仇を追いたい。見つけ出して、この手で」
爪が食い込むほどに、ヴレイは拳を強く握った。