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WILD SKY~彼らを繋ぐ世界の空~  作者: 立花 佑
第四話~ブレスレットが示す形~
18/61

1.

 天井がドームになった格技場は、端から端まで声が届かないほどに広かった。体術を修練するための空間なので、色褪せた木製板が張られているだけの空間だ。

 足を踏み入れると、軋み音が響いた。

 窓から射し込む陽光が、古風な格技場内を鮮明に映し出した。

「では先輩方、御手合わせ願います」

 ヴレイは部屋の中央に立って、丁寧にお辞儀をした。

「おっしゃ、じゃあ俺から相手してやるよ、一発目から班長相手は酷だろうからさ」

 各艦隊には戦闘員といわれるスピリッチャー隊員が所属している。

 非戦闘員か、スピリッチャー隊員か、体格を見れば一目瞭然だ。

「それはお気遣い感謝します、胸をお借りします」

 足を擦るように、肩幅ぐらいに開き、拳を胸の前で構える。

 浮かない顔をするジールは、対峙するヴレイと隊員の間に立ち、スッと腕を上げた。

「ほどほどにな」と審判役に回ったジールは剣呑な目付きで、ヴレイを睨んだ。

「始めッ」

 腕が振り下ろされると、「そんじゃあ」と床を最初に蹴ったのは隊員の方だった。

 隊員は素早く間合いを詰めると、素早く右足を蹴り出した。

 跳躍したヴレイは蹴り出された右足に飛び乗り、そのまま真上へ飛び上がって着地した。

 ハッと振り向いた隊員は、何が起きたのか分からないような顔だ。

 周りからは「手加減しすぎたのかぁ」と野次が飛んできた。

「ああ、そうだったみたいだ、じゃあ次は手―ェ抜かねえぜ!」

 再び隊員はヴレイに向かって間合いを詰める。

 拳が突き上げられてきたので、避けようと体を傾けた時、拳が引き下がり、代わりに脚が避けた体に向かって飛んできた。

 拳を避ける予定だったので、脚にまで気を回していたかったヴレイだが、避けはせずにそのまま隊員の足を片手で掴んだ。

 外野が騒然となった。

 片足でバランスを保っている隊員も、「お、おい」としか言えずに、狼狽えていた。

 相手の余裕のなさに、ニヤリと口元を緩ませたヴレイは両手に持ち替え、隊員の足を引っ張ると、遠心力を付けて外野へ投げ飛ばした。

 わあっと巻き込まれた外野は、飛ばされてきた隊員に「大丈夫か」と、呆れ気味に心配していた。

「つうか、何なんだ、あのガキは」

「本当に新人かよ、あいつは」

 飛ばされた隊員を起こしながら、外野は慄いていた。

「ハイハイ、ここまで、ヴレイ、行くぞ」

 外野の前でパンパンと手を叩いたジールの後ろから、別の隊員が前に出てきた。

 造形品のような筋肉を悠然と揺らし、大木のように仁王立ちした。

「ガキに負けっぱなしでいろと言うんですか、隊長。俺が相手をします」

「班長!」と呼ばれた隊員は手首を回しながら、ヴレイと対峙した。

 ジールの許可が下りぬ間に、ヴレイと班長の間には火花が散っていた。

「おもしろいじゃん、若造が!」

 班長は素早く間合いを詰めると、目にも止まらぬ速さで拳を繰り出してきた。

 両腕でなんとか防御するだけのヴレイは、拳の動きまでは見切れなかった。思わぬ速さだったが、後ろへ飛び退くのも悔しい。

 拳を受けるのを覚悟で、班長の顔面目掛け、拳を高速で突き出した。

 案の定、ヴレイは頬に班長の拳を食らったが、班長も同じく頬に拳を受けた。

 思いのほか、大した衝撃ではなかった。おそらく、高速に繰り出していた分、一発、一発の攻撃力は小さかったのだ。

 だがヴレイが放った一発は、渾身の一発だ。

 頬に打撃を食らった班長は軽く宙を舞い、野外を巻き込んで昏倒した。

 外野は班長のやられ様に「ちょっと腕が立つからって、いい気になるな新人」や、「調子に乗るな、チビガキ!」など大人気もなく、年下に罵声を吐き始めた。

「お前らやめんか!」

 ジールが慌てて止めに入るが、外野の興奮度は熱湯に入れた温度計のように上昇する。

「俺は新人じゃねぇ!」

 外野の罵声に掻き消されまいと、ヴレイは歯をむき出しにして吠えた。

「十三の時からディウアースに乗ってる、セイヴァ一のストライカーだあ! 覚えとけぇぇ!」

 格技場に割れんばかりのヴレイの怒号が響いた。

「結局、それが言いたかったのかよ」

 ジールの独り言は誰も聞いていなかった。

「遊びはここまでだ! お前らは通常に戻れ、ほら、行くぞヴレイ」

 ジールに腕を掴まれ、半分引きずられるようにヴレイは連れ出された。


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