4.
湾岸線をひたすら走り続けた。要塞が巨大すぎるせいか、姿が見えてから思いのほか、ジェムナス支部が遠かった。
支部に着くと、案内されたのは剣山みたいな本丸の手前、ジールが町と言った地区に、車は向きを変えた。
「先に、お前の住まいに案内する。明日の朝、迎えに来る、本番は明日ってことだ」
見下ろしてきたジールがウィンクを飛ばしてきたので、まともに受け止めてしまったヴレイはゾワッと全身の毛を逆立てた。
両側を煉瓦造りの長屋に挟まれた、石畳の道路を進むと、小径の入口で車は停まった。
「目の前だ、行くぞ」
ジールが車から降りたので、ヴレイも後に従いて降りた。
白い土壁に、六面にガラスが分かれた窓が、等間隔で並んでいた。
慣れた様子で、ジールは正面の木製扉を開けて中に入っていく。
中は天井の低いエントランスになっていて、二階へ続く螺旋階段がある。
右へずっと廊下が続き、これもまた等間隔にドアが付いている。
「第一艦隊員の士官以下の寮だ、派遣兵もこの寮と決まってて、少し狭いかもしれないが。本部からの荷物は既に部屋に運び込まれてるぜ」
上機嫌に説明しながらジールは螺旋階段を上って行く。
二階も一階と同じようにドアが並んでいた。
キィキィと小動物の鳴き声みたいな音を響かせながら、廊下をひたすら進むと、最奥のドアの前でジールは止まった。
「ここがお前の部屋だ、でこれが鍵な」
ヴレイの手に鍵を握らせると、「じゃあ、ゆっくり休めよ」とジールに肩を叩かれた。
遠くまで来たんだなと思わせる、味わい深い木製のドアを開けると、人も入れそうな革バッグが二つだけ届けられた、長方形の部屋に迎えられた。
部屋に踏み込んだヴレイは、湿った木の香りに新鮮さを覚えながら、ドサリと肩らバッグを下した。
寝床と簡易デスク、クローゼット、ドアの横に洗面台があるだけの簡素な部屋だ。洋服以外はしばらくバッグに詰めたままになるだろう。
「ま、そんなにこの部屋には世話にならないだろうし」
グローリアス大陸の機械化の偵察が任務なのだから、留守にすることの方が多いはずだ。
荷物の山を避けて部屋の中を通り、鍵の掛かった両開きの窓を開け放った。
湿気を持った南風が部屋の中に吹き込んだ。
夏が近いのかぁと、ゆっくりと流れる時間を、開放的な気分で満喫していたが、ハッとヴレイは気付いた。
「夏服持ってきてないし。ま、買えばいいか」
剣山が威厳たっぷりに聳え立っているジャムナス支部を、目と鼻の先で眺めてから、「さてと」と腹を括って、部屋の片づけを始めることにした。




