表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
WILD SKY~彼らを繋ぐ世界の空~  作者: 立花 佑
第三話~託された想い~
PR
13/61

1.

 冬の到来が間近に迫ると、一層冷たくなった空っ風が、薄紅色の花を付けた枝を踊らせる。

 花びらさえ寒そうに震えているのに、見事なまでの満開だ。

 落ちゆく夕焼けがセイヴァ本部を愁色に染め上げる。

 憩いの場として公園が幾つも設けられていた。この寒空の下、公園には誰の姿もなく、ヴレイだけがベンチに足を投げ出して座っていた。

 寒さで眉間に力が入る。

 唇が乾燥する、頬が空っ風に晒されて冷えてきた。

 後頭部で結った黒髪が引っ張られるように舞い上がる。

 引っ張られたついでに、風が鳴る上空をぼんやりヴレイは仰いだ。

 どうして空はこんなに高いのかと、どうでもいいことを考える。どうでもいい事柄は、気楽でいい。原因を求める必要がないから。

 脱力思考に耽っていると、枯れた芝生を踏み歩いてくる足音が、地面を伝わって近づいてくる。

「何やってんだ、たそがれ君」

 熱いものが頬に当てられ、「おわっ」とヴレイは声を上げた。

 視線を上げると、イーグルが缶コーヒーを持って立っていた。

 首筋まで伸びた青みがかった黒髪が横風になびいている。

「ほらよ、コーヒー」

「あ、ありがとう」

「どっこいしょ」とイーグルは隣に腰を下ろすと、二人同時に缶コーヒーの蓋を開けた。

「ケガのリハビリも昨日で完了したんだってな、さすがに運動機能は鈍ってんじゃないの?」

 ノアより一つ年上のイーグルは長い脚を組んで、クッとコーヒーを一口だけ含む。落ち着き払っているイーグルに対して、何事にも快活で豪快だったノアとは対照的だ、だが喋り方は似ていた。

 ノアとイーグルは幼馴染で付き合いも長かった、自然と話し方が似ても不思議じゃない。

「体力測定は前年のベストを上回った、まったく問題ないね」

 缶コーヒーを一気に喉に流し込んだヴレイは、「ぐはぁ」と唸った。

 熱くなった息が鼻から抜けた。

 その後に、甘い香りが鼻の中に侵入した。果実にも似た甘酸っぱい香りが風に乗って、公園全体をその香りで包んでいた。

 この甘い香りが冬の到来を感じさせる。

「ぶぅ」とイーグルは隣でコーヒーを噴き出しそうになった。

「はぁ、前年のベスト更新って、お前確か、去年もベスト更新って言ってたぞ」

 呆れかえって口端を引き攣らせていたイーグルは、ぐったり体を背もたれに預けた。

「怪物並みの運動能力だな、あ、そうだ、修復作業が予定を大幅に遅れて完了した。とくにディウアースは修復じゃなくて復元作業だったらしいぜ、調整が終わり次第、試運転だな」

 今思えば、少しも気に食わない奴ではなかった、その事実を知ったのは、ノアがこの世を去ってからだった。

「そうらしいな、コーヒーごちそうさん」

 空になった缶を軽く振って、ヴレイはベンチから立ち上がった。

「まだ、引きずってんのか、もう一年だぞ」

 引きずってないと言ったら嘘になることぐらい気付け、とツッコみたくなったが、気にされているだけ有難く思った。

 今も、溢れそうになる涙を堪えるのに精一杯だ。

 イーグルの質問に答えることができず、立ち尽くした。

「辛いのはお前ばっかりじゃねえよ、無理して元気を振舞えっつってんじゃない、あいつを見送ってやれよ」

 その瞬間、じわりと目頭に涙が浮いた。

『ねえ、ヴレイ!』

 ノアが鼻筋にくしゃっと皺を寄せて笑った。そういえば、よくそんな顔してたな、と瞳を閉じて想い描いた。

「分かってる、ありがとう、イーグル。お前がいてくれて、よかった」

「なんだよ、改まって、気持ち悪いな」

 イーグルは真面目に嫌がっているみたいだったが、ヴレイは鼻で笑った。

「礼、言っとかないと、ノアに怒られるからさ」

 まだ涙は枯れそうにもない、それでも前に進まなくてはいけないのだから。

 冷えた風が撫でるようにヴレイの黒髪を揺らした。

「そうかよ。そういえば、風の噂で聞いたんだが、艦に使われる部品が他大陸に輸出されてるって」

 イーグルはまだベンチから起き上がる気はないようで、組んでいた足を解き、大股開きで投げ出していた。

「え?」と眉をひそめたヴレイは、横目でイーグルを見遣った。

 コーヒーを飲みほしたらしく、缶を振って中身が空なのか確認している。

「で、輸出先は?」

「グローリアス大陸の、どっかの国らしい」

 自分が勉強不足なのか、それとも情報が大まか過ぎるのか、とりあえず理解に苦しむヴレイは額を掻くしかなかった。

「戦艦部品を他大陸へ輸出することは禁止されてないだろ、国同士が協定を結んでいれば許可されているし、うちから輸出されてるのか」

 空になった缶を横に置いたイーグルは、両手をポケットに突っ込んでから答えた。

「うちも勿論あるだろ、輸出元の断定には数があり過ぎるし、つうか部品の輸出は昔からある、それが今になって浮上したってことは、その数が増えたってことだ。グローリアスも変わったよな、歴史文化を守ってきた大陸だろ、保守的っつうか」

 褐色の瓦屋根、石造りの建物、鉄馬車、サーカス団のパレード、幼い頃の記憶が、断片的によみがえった。

 子供の頃に住んでいた村を思い出そうとしたが、やはり霧のように直ぐに消えてします。

手首のブレスレットに触れた時、背後から甲高い声が飛んできた。

「あー、こんなところにいた! ヴレイ、探したんだから」

 チラッと振り向いた先には、探し疲れた感を滲ませたソラが小走りでやって来た。

「ヴレイ! 総司令が呼んでるわよ、アラ、イーグルじゃない、相変わらず色男ね。私とはデートしてくれないのに、この子とはデートするんだ」

 年下に可愛い子ぶるソラも相変わらずの中年パワーだ。しかも、面白くもなんともない。

 ヴレイは横目で冷ややかな視線を送る。

「久しぶりッス! ソラさんもいつもお綺麗で、今度は是非、あなたとデートさせてくれませんか」

姿勢を正してソラに表を向けると、ソラの手を取って、イーグルは手の甲にキスを落とす真似をした。

「ほんとにー? じゃあ今から、予約しちゃおうかなぁ」

 ソラもまんざらでもなく、嬉しそうだ。

でも、こんなくだらない茶番に笑わせてもらっている。心からではないが。

「ソラさん、旦那さんが泣きますよ」と一応、旦那さんをフォローする。

「大丈夫よ、こっちは別腹だから」

 年甲斐もなくソラは「ネッ」とウインクしてみせた。もっとやめてほしい。

「二人とも、目ぇ、腐ってますね」

「「オイ、どういう意味だ!」」と見事に二人の声が揃った。

「ったく、そんなことより、ヴレイ。あなた、グローリアス大陸へ派遣されるかもしれないわ。人事部に書類が届いたの。派遣される者の資料は予め人事部を通るから、そこにあなたの書類が」

 息を整えながら言ったソラは不安げに眉をひそめた。

「まさか」と言いたげなイーグルの険しい視線に、ヴレイは軽く鼻で笑った。

「まぁ、とりあえず行ってくる」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ