6.
正方形のボードが敷き詰められた天井があった。
ピ、ピ、ピという規則正しい、心拍測定器の音が耳に付いた。
何度かこの病室には世話になっていたヴレイは視線を横へずらす。
ベッドの横で、椅子に腰かけていた女は手元の文庫本に視線を落としていた。
見た覚えがあった。俯きかげんの目元には少し隈が見えた。疲れているのかな。
「ソラさん、俺はいったい……、みんなは」
読んでいた文庫本を閉じたソラは、どこか打ちひしがれた悄然とした眼差しを向けてきた。
笑顔を作ろうと努力はしているが、どうしても口角を吊り上げられないでいる。
「スピリッチャー隊は、三十五名が重軽傷、十三名が殉職。第一艦も攻撃を受け、二名重症、一名殉職。あなたも一週間、昏睡状態が続いていたのよ、全治三カ月。ディウアースはいつ完全修復されるか、見通しが立っていないそうだけど、妖源動力システムは本部に基礎が保管されているから、問題ないそうよ」
ソラの話を聞いても、話の内容は右から左へすり抜けていくだけだった。
ディウアースの話より、もっと大事な話を遠ざけられているような気がして、ヴレイはやっとの思いで口を挟むことができた。
「あ、あの、ノアは、ノアは無事なんですか? 無事なんですよね、発令室にいたはずだし」
目尻に涙が溜まる。鼻の奥がツーンと痛くなって、涙が零れそうになるのを堪えた。
いつまでもソラが返事をしないので、「無事なんだろ!」と怒鳴り口調で、答えを催促した。
「ノア・シェルトリーは、彼女は……」
ソラの目頭に涙が溜まった。
ああ、そうか。とヴレイはソラを通り越して、病室の窓の向こうまでを見据えながら、確信した。
「彼女は、殉職したわ」
ダムは決壊した。横を向くヴレイの涙は、頬には流れず、鼻筋を横切った。
最後に見たノアの顔はどんなだっただろう、思い出そうとしても、既におぼろげだ。
そうではなく、思い出そうとすると、涙が溢れて思考を鈍くさせる。
顔を反対側へ向けたヴレイは、流れ出てくる洟を必死に啜った。
「誕生日は、二人で祝おうって、……電話で話したんだ、ついさっき話したばっかりなのに」
熱い水が枕を濡らす、手も動かすことができず、拭えない。
握った拳でベッドを何度も、何度も叩いた。
「ウソだ、こんなの全部ウソだ! ウソだ! ウソだ! ――ウソだよ……だって」
叫んでも叫び足りないほどに叫んでも、いくら怒号しても涙は枯れることなく、枕を濡らし続けた。
『それだけでも凄い才能よ、ヴレイが努力してるのは知ってるから、だから二度と不貞腐れるな、いいな!』
もう二度と、太陽のように輝くノアの声を聞くことはできない。




