第5話 悔い ~新谷編~
「じゃあなんだ、『ときのいし』とやらを使ってあの時逃がしてくれたってこと?」
時計は10時を回っていた。
「そういうことね」
「ふむふむなるほどなるほど」
新谷は頷くと、
「んなもん信じるかボケ」
「んもー!良い加減信じてよー!」
「まあいいそんなことよりだ。」
「なによ」
女の子は俺が与えた野菜生活を飲みながら言う。
「腹減った」
ガクン!と女の子はうなだれたが、
「まあ、それは同意ね。」
とあっけなく認めた。
「外食すっから外出る準備しろ」
「えー分かったわよー」
言い終わって新谷は気がついた。
「そういえばさ・・・・」
女の子は準備をしながら顔をこっちに向ける。
「あいつまた襲ってこねえのかな・・・」
やっぱり外出すべきではない。そう新谷は考える始めていた。特にあの男の狙いはこの女の子である。夜に外食に行くという自分の軽率な考えを新谷は後悔していた。
女の子は暫く真顔でいたが、すぐにニターっと笑った。そしてこっちに近づいてきたかと思うと、肘で新谷の脇腹をつつきながら、
「えーもしかして怖いのー?!」
とニヤニヤしながら言ってきた。
「こ、怖いわけねーだろ!」
「ふーん、少し震えているように見えたけどー?」
「そんなことねーよ!」
全くこいつは・・・こっちの気も知らないで・・・
「まあ、でも大丈夫よ」
女の子は言う。
俺はため息をつくと、
「そうなのか?なにか言い切れる理由でもあるのか?」
「そうね」
女の子は言うと、
「まあ、またあとで説明するけど、あの男に私達を探し出す術はないの」
「は、はあ・・・」
「契約者はの能力は1つ、なんて言っても分からないでしょ?」
「ま、まあな・・・」
何言ってんだこいつ。俺はじっと女の子を見つめた。
「な、なによ」
「いーや、なんでもー」
「はっきり言いなさいよ!なにか信じられない部分でも!?」
「はいはい信じてます信じてますって」
女の子は歯ぎしりしながら顔を真っ赤にしてこっちを睨んでいる。
「まあでも・・・」
女の子が小さな声で呟く。
「なんだ?」
「あ、ありがとね」
「なにが?」
女の子は顔を俯かせていて表情が読み取れない。
「た、助けてくれて」
「ああ」
新谷は頷いた。
「当たり前だろ」
新谷は言う。
「目の前に元気良く悲鳴をあげている女の子がいるんだぜ?そのまま帰ったって胸糞悪いだけだろ。」
「でも・・・」
「俺を危険な目に合わせたかもってか?見くびるなよ。目の前にもっと危険な目にあってる奴がいるんだ。そこで帰っちまうほど俺は腐っちゃいねーよ」
本心だった。
「だからさ。俺は最後にお前を置いてってしまったことを凄え後悔している。あの時の自分を引っ叩きてえ。でもさ、あの時逃げ出したかったのも否定できねえ自分がいるんだ。俺は自分のそういうところが凄く嫌いだ!」
新谷は自分でも不思議なくらい熱弁した。やはり自分の心の奥底で自分に対する不満があったのかもしれない。
そう、小さい頃のあの日から・・・
女の子の方を見るとびっくりした顔をしていた。
自分でも喋りすぎたかな、と新谷は思った。
女の子が口を開く。
「ううん、やっぱりありがとね」
女の子は後ろを向く。
「こんなことに巻き込んじゃって。」
「それはまあ・・・・・・お互い様だな」
女の子は後ろを向いてまた俯いている。
「そうだ。これをあげるわ。」
女の子はポケットを探ると小さな箱のような物を取りだした。
こっちを向く。目が少し赤くなっているのは気のせいだろうか。
そうして女の子は俺の右手にそれを握らせた。
「開けて・・・いいのか・・・?」
「今はダメ」
女の子は言う。
「え?」
「本当に開けたくなったらその時に開けて。」
「・・・分かった。」
俺は約束した。
2人は立ちすくしてた。
2人の間に何とも言えない空気が流れる。
「じゃあそろそろ行くか」
「・・・そうね」
俺と女の子は玄関へ向かう。
「その野菜生活は飲み終わったらゴミ箱に捨てておけ。」
「おーけー。えーとこの時代には粒子化箱はないのね」
「は?」
「いや、なんでもない」
女の子は野菜生活をプラスチックのゴミ箱に投げ捨てた。
「そういやさ」
俺は玄関の鍵を閉めながら言った。
「何?」
「お前名前は何ていうの?」
「ああ」
女の子はニコッと笑いながら言った。
「私の名前は春奈。よろしくね。」