第4話 2012年 ~櫻井編~
「10年後と余り変わらないものね」
俺のミッションパートナー、空は言った。
俺達は今、2012年の横浜みなとみらいに来ている。
「そうだな」
俺は答えた。
確かに街並みや周りの景色は10年後...つまり2022年と余り変わっていない。
ただ1つだけ決定的に違うことがある。
「時空管理タワーがないけどな」
2022年の東京には時空管理タワーが存在する。それは日本一高いタワーであり、横浜からでも余裕で見ることのできる高さである。
2022年ではそのタワーを中心に回っていると言っても過言ではない。
しかし2012年の日本にまだそのタワーは存在しない。
「私あのタワー嫌いなのよね」
空は言う。
彼女のショートヘアーが風になびいている。表情はどこか寂しげだ。
2016年。日本の斎木涼平がタイムマシンを発明する。
それから世界は大きく変わった。いや、変わり過ぎた。タイムマシンの発明が吉とでたのか凶とでたのか、櫻井には未だに分からない。
でも間違いなく言えることは1つある。争いが増えたということだ。
それは当たり前といえば当たり前のことであった。
だから空が言いたいことが俺には少し分かった。
俺の父親はよく言っていた。
『タイムマシンは人々に希望を与えた。だがそれと同時に不安も与えてしまった。発明すべきだったのかそうでないかは誰にも分からない。でも発明してしまったものはしてしまったものだ。最大限に生かすのが筋というものだろうな。もちろんいい方向に。』
懐かしいな。
「とりあえず拠点を探しましょ」
空が言う。
「そうだな」
「うーん。京帝ホテルはこの時にはまだないのよねえ。」
「なんならラブホでも探すか」
「こ、殺すわよ」
空がまた顔を真っ赤にしている。ホントからかいがいがある奴だ。
空はポケットからタイム・シルバーを取りだした。
タイム・シルバー。簡単に言えば超高機能携帯電話だ。形状は2012年のスマートフォンと全く同じである。しかしその性能は10年間で大きく進化した。
大きな改良点としては、「時空環境管理機能」が大きいことだろう。
それはつまり一言でいえばその時代に応じたネット環境に自動で適応してくれる機能のことである。
例えば、2012年と2022年では地図は大きく変わっている。2022年から2012年にタイムトラベルした時に2012年のマップを表情したりすることも可能となるわけだ。
「うーん。あまりないものねえ。」
空が親指で画面を操作している。櫻井はあることに気がついた。
「空、指輪なんてつけているのか。」
タイム・シルバーの影になってよく見えなかったが、よく見ると右手中指に銀色の指輪をつけている。
「そういうのは左手薬指につけるもんじゃないのか?」
「ああ、これね」
空は少し嬉しそうな顔をした。
「ずっと昔親戚にもらったの。お守り代わりになるからずっとつけとけって。」
「ふーん、どんくらい前だよ」
「結構前よ。顔も覚えてないし・・・。でもね・・・」
空はふと口をつぐんだ。
そしてしばらく黙った後、
「この話はやめ。ホテル見つけたし向かうわよ。」
と投げ捨てるように言った。
「なんじゃそりゃ。」
空は歩きだす。
夜景が綺麗だ。ランドマークタワーは2022年と変わらないものだ。そういえば横浜はこのときもまだデートスポットだったのだろうか。
「俺も指輪プレゼントしてやろうか?」
「いりません」
「ショボーン」
ふふっ、と空歩きながら笑うと、
「私ね、思い出って大切にした方がいいと思うの !」
「どうしたんだ急に。」
「良い思い出も悪い思い出もぜーんぶ!だって、良い思い出も悪い思い出も今の自分を作ってくれたんだよ!そういう部分全部を受け入れて前向きに生きた方が人生楽しいと思わない!?」
櫻井は少しびっくりしていた。空がこんなによく喋るとはな。
空とはコンビを組み始めて結構経つ。最初は「静かな奴だなー」という印象だった。
でもコンビを続けていくうちに分かった。
空は前向きだ。いつもいつも。
それは今でも変わらない。櫻井はそのことに気がついた。
「そうだな、思い出は大切だな。」
空は嬉しそうな顔をした。
「じゃあ」
と俺は歩きながら続ける。
「お前の下着が黒だってことも思い出に留めておくな」
「それは忘れなさーーーい!!」
ビンタが飛んできた。
ホントにこいつはからかいがいがある奴だ。