第1話 始まり~新谷編~
「くそっ、なんでこんなことになるんだよ!!」
新谷良太は街中を走っていた。
頬を汗がしたたる。
新谷がいるのは繁華街から少し離れた路地裏。空はもう真っ暗だ。
息があがってきた。隣を俺と走っている女の子は余り息はあがってないな。
どうしてこんなことになっているのか...ただの大学生でいたいだけなのに...
などと考えていると走ってる新谷の目の前に男が現れた。
「見つけたぞ」
「ひぃ!!」
新谷は叫ぶ。新谷は喧嘩は全く強くない。だから逃げてた訳で...
どうしてそもそもこんな奴に追われてたかというと、それはかれこれ30分くらい前に遡る。
横浜市のみなとみらい。
そこのとある大手チェーン喫茶店で新谷は晩飯をとっていた。晩飯といってもたかがサンドウィッチである。
しかしそんなものでも苦学生にとってはご馳走であるのだ。
新谷の気分はとても良かった。今は7月24日。つまりは試験週間の最終日である。
試験自体はお世辞にもできたとはいえない出来だった。
薬理学は薬の作用機構は全く覚えていなかったからまず赤点。
組織学は最低限のことだけ覚えていった。その結果、赤点はまぬがれたかなあ、といった具合である。
そう、新谷は医学生だった。新谷は今は3年生。二十歳である。
そんな具合の新谷だったが、テストが全部終わったら出来に関わらず、気分というのは良くなってあしまうものである。
誰もが経験あるのではないか。
そんなこんなで新谷はサンドウィッチを頬張っていたわけだが、
「ん?」
新谷は喫茶店の窓越しで晩飯にありついていた。窓から外を覗くと、
女の子が男に手を掴まれていた。女の子は嫌がっているように見える。
「いやあああああああ!!」
女の子は悲鳴をあげた。
新谷ははっとした。急いでサンドウィッチ代を払う。
「っていうか何で周りの奴はあの2人を無視してるんだよ!!」
2人の周りには大勢の人が歩いている。なのにまるで2人が見えていないかのように振舞っているように見える。
店をでた。2人をの場所までは30メートルってところだろうか。
走って向かいながら新谷は2人を改めて見る。
女の子は黒髪長髪。身長は160ってところだろうか。年齢は...高校生かな...?顔は...整っている。
そして男。白髪か。身長は175ってところか。自分と同じくらいの年齢だと思う。
「何してるんだよ!!」
新谷は威勢良く男に向かってそう言ったが、すぐに後悔した。
まず眼光が鋭い。ガタイも思ったより良く、明らかに喧嘩慣れしている。
新谷はすぐに逃げるべきだと思った。元々新谷は喧嘩慣れなどしていない。
やっと男が口を開いた。
「お前俺のこと、」
言い終わる前だった。
新谷は女の子の手首を掴み、全力で走り始めた。
「逃げるんだ!!」
「え・・・!?」
女の子が突然のことに声をだしたが、すぐに頷いた。
「分かった!!」
「....待て!!」
男は暫く棒立ちしていたが、すぐに追いかけてきた。
「まずはこの広い所から抜けよう!!身を隠す所を探さなきゃ!!」
「分かった!!」
こいつさっきから「分かった」しか言わねえな、とか思いつつ新谷は全力で走る。
まずは繁華街を抜けなくては・・・
近くに路地裏がある。そこまで走ればなんとか隠れることはできるであろう。
男はなかなか追いついてこない。後ろは振り返りたくないが、追いかけてきているのだろうか。
「追いかけてきているのか!!っていうかあいつは何者だ!?お前の知り合いか!?」
「知り合い...ではない...」
女の子がいう。
「多分...『けいやくのうじゅつ』を解くのに戸惑っているんだとおもう・・・」
「なんだって?」
「...何でもない」
女の子は少し黙る。
「とにかく、あいつはお前の敵ということで間違いないんだな!?」
女の子は頷く。
「じゃあとりあえず逃げよう」
路地裏に2人は逃げる。
「あのぉ」
「なんだ?」
「...いつまで手首掴んでるの?」
「あっ、ごめん」
新谷は手首を急いで離す。女の子を見ると少し笑っていた。
こいつホントに逃げたいのか・・・?
と思っていた時だ。
2人の前にさっきの男が現れた。
なんて早さだ...!
新谷はまずそう思ったが、すぐに違和感を感じた。
どう考えてもおかしい。
広場から裏路地に入ってからはまだ一本道だ。俺達より前にくることなどあり得ないのだ。
「お前、何者だ?」
「その言葉、そのまま返させてもらう」
男は静かに喋った。
「どうして俺の姿が見えた」
「...何言ってるんだ?」
「いずれにせよお前も生かしておくわけにはいかなくなった。イレギュラーは排除するのが鉄則だからな」
そして、、、
刹那、男を見失った。
正確には見失ったのではない。男のスピードが早過ぎて元の場所に男を観測できなかったのである。それはもう人間のそれを軽く超えていた。
もう男は眼前にまで迫っていた。
「くそっ!!」
その時、
横に立っていた女の子が俺の脇腹辺りにすごい勢いで掌をぶつけてきた。
そして、
新谷は女の子から高速で吹っ飛ばされた。
「なんだ...!?」
そう思った時には新谷は道路の壁に勢いよくぶつかっていた。全身が痛む。さっきから訳が分からないことばかりだ。
俺がさっきまでいた場所を見る。男の拳が空をきっていた。
どうやら女の子は俺を助けてくれたみたいだ。というか何が起こってるんだ・・・
「早く!!逃げて!!」
女の子が叫んでいた。
「早く!!」
どうやら俺に逃げろということらしい。
「早く!!私なら1人で逃げられるから!!」
「でも...!!」
「早く!!」
女の子をもう一度よく見る。目が本気だった。そしてその目には気のせいかもしれないが涙が少し浮かんでいた。
女の子の顔を見ると1人の人物を思い出した。よく見ると顔つきも喋り方もよく似ている。
俺は...あの時...
「早く!!あいつはが今狙っているのはあなたよ!!」
「くそっ!!」
俺は急いで元来た道を引き返す。
また逃げてしまった...
新谷は後悔しながらも少しホッとしている自分を憎んだ。
「逃がしはしない」
男がそう言ったのが後方で聞こえた。
「そうはさせないわ」
女の子が言う
「お前...それを今ここで使うのか...」
「使うわ」
女の子がそう言った瞬間、、、