4匹目:
山田姉に対しての説得活動は失敗に終わった。
彼女は前言の通りに、こちらの言い分を尽く切り捨てていった。取り付く島もないとはまさにこの事だろう。
結果、山田姉による折檻は決行され――
「拷問とは、被害者の自由を奪った上で肉体的・精神的に痛めつけることにより、加害者の要求に従うように強要する事。特に被害者の持つ情報を自白させる目的で行われることが多い。
文脈によっては苦痛を与えることそれ自体を目的とする行為も拷問と呼ばれることがある」
「……おい」
「石抱とは――」
「その携帯を閉じろクソ野郎!」
やるだけやった山田姉はゴキ子を連れて去った。そして男二人だけが残された部屋の中。
背に柱を置いた坂田がいる。彼は、その柱に両腕を縛り付けられ、膝上に伊豆石と呼ばれる巨大な石を乗せていた。膝の上から落ちないよう両端を縄で縛られた石の数は4枚。石の重さに晒された脚の下には、床の代わりに、三角形の木材が敷かれている。十露盤板、そう呼ばれるものだ。
自らの体重と伊豆石の重量を受けた両脛が、十露盤板の稜線に食い込み、坂田の両足を蒼白く変色させている。
そんな彼に背を向けた状態で携帯を弄っていた金の短髪、山田弟が一瞬だけ振り向いた。
坂田の姿を確認した彼は肩をすくめ、再度、背を向けて携帯へと視線を落とし、
「石抱とは――」
「Mikuperodia音読して的確な状況説明のつもりか!? 間違ってないだけあって腹立つわ!」
言えば、卓袱台の前に座っていた背が立ち上がり、大仰な動きで振り返ると、
「ははは! 動けぬ坂田なぞ恐るるに足らんわ! ねえ、今どんな気持ち? 普段と立場逆転して、今、どんな気持ち? ねえねえねえ?」
「覚えとけよ……!」
と、凄んでみたはいいものの、現状、身動きの取れないこちらとしては、目の前の馬鹿を頼るしかないのだが、両手を腰に当てて踏ん反り返っている馬鹿を頼るのは癪だ。
「しかしこれ、痛くないのか?」
したり顔で馬鹿が、積まれた石を指差して問うてきた。
「人間、限界を超えると感覚消えるんだよなー」
実際、三枚目までは痛みで気がふれそうだったが、四枚目を積まれてしばらくすると、痛みが消え、さらに時間が経つと、両脚の感覚が失せ、脚が消えてしまったような錯覚に陥った。
「……葬式には行くから」
こちらの返答を受けて流石に危険を感じたのか、馬鹿がそんな事を言ってくるが、
「そうなる前に助けやがってください、このクソ野郎!」
「ははは、だが断る!!」
「だが断るじゃねえよ! いいからさっさと石どけろって」
「いや、石どけたら、お前、憂さ晴らしに俺のこと殴るだろ?」
……馬鹿のくせに学習してるじゃないか。
だが、
「殴らないから助けろ」
と、言うよりも殴れないのだ。
石に圧迫され続けた脚は、その重さから解放されたとしても感覚を取り戻すのに時間がかかる。しばらくは歩くどころか、立ち上がることさえ困難だろう。両腕も拘束がキツい所為か先程から動きが鈍い。
そんな状態で殴りかかろうにも失敗するのがオチだ。
……まあ、殺れそうなら殺るが。
「そんなこと言って、殴れそうなら殴ろうとか考えてるだろ?」
「わかってるなら、さっさと助けろ」
「うわ、否定しやがらねえですよ、こいつ」
大袈裟に身を引いて驚きを表現した山田弟は、一度深くため息を吐いて、
「お前さ、普通に助けてくださいって言えないわけ?」
山田弟の問い掛けに、そんなことはお互い様だろうと返してやれば、彼は僅かに肩をすくめ、苦笑して、
「違いない」




