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ゴキ娘!!  作者: 猫派犬派
53/58

4匹目:




「肉はもらったー!」


 偉い人は言いました。食事とは戦争である。


「渡しません!」


 なるほど流石は偉い人だ。目の前の光景を見ると納得がいく。

 食事を開始して数秒と経たず、卓袱台の中心は戦地と化したのだ。

 ただし、戦場で繰り広げられるのは全員参加の乱戦ではなく、相対した二人による決闘だった。

 具体的には、実の姉にトドメを刺され、しかし即時復活を果たした馬鹿と、食い意地が取り柄の害虫娘が、鍋の上で箸先による鍔競り合いを繰り広げている。


「俺の剣を受けるとはなかなかやるな、ゴキ子ちゃん!」


 ……それにしてもこの馬鹿野郎ノリノリである。あと、それは剣じゃなく箸だ。

 と、心の中でツッコミを入れる。

 対するゴキ子の方も不敵な笑みを浮かべ、


「弟さんこそ――、」

「はいゴキ子ちゃん、あーん」

「あーん」


 不敵を満面に変えて咀嚼。喉を動かして飲み込み、


「んー! 美味しいですね! ありがとうございます!」


 そして表情を不敵に戻して、何事もなかったかのように、


「――なかなかやりますね」

「いやいやいやいや! なに普通に再開してんの!? というか姉さんは邪魔しないでよ!」

「あらー? でもゴキ子ちゃん可愛いのよ」

「姉さん! 弟! 可愛い弟が飢えてるんだよ!」


 ほらほら、とアピールする弟とゴキ子を見比べた山田姉は、んー、と口元に指を当てて唸り、しかし、


「はい、あーん」


 ゴキ子を選んだ。


「あーん」


 ゴキ子は再び、お礼を言うまでの動作を繰り返し、


「如何ですか? お姉さんを味方につけた私は無敵です」


 ……それは単に餌付けされているだけではないだろうか。

 傍から見ていると、まさしくその通りなのだが、ゴキ子は恐らくそのことに気づいていない。山田弟の方も、テンションがおかしな方向に振り切れてれいる所為か、気にかける様子がない。それどころか彼は、


「仕方がない。この手だけは使いたくなかったんだが――」


 そう言って何故か、傍観に徹していたこちらを見てきた。

 そして、


「これが俺の最終兵器だ! さあ! 坂田! やってしまえい!」


 当然無視した。


「先輩。ゴキ子に食べさせてくれるのは有難いですけど、先輩も食べてください」

「ありがとう坂田くん。お言葉に甘えて私も頂くわ」


 言うと山田姉は自分でも食べ始めたが、合間合間に箸がゴキ子の口元に運ばれているあたり抜け目ない。


「おいこら坂田! 無視か!? 無視だな! そうなんだなおい!!」

「……」


 馬鹿が凄んできたが、やはり無視した。


「男のジト目なんぞ嬉しくないわ! そんなことより協力しろ馬鹿野郎!!」


 ……馬鹿に馬鹿扱いされるとは……。


「……ブチ転がすぞ」


 鍋をつつく手は止めず睨みつけて言えば、馬鹿は一瞬だけ怯み、しかしすぐに勢いを取り戻して、


「……い、いいか馬鹿野郎! 手前はこれらからアレと同じことをしろ!」


 と、馬鹿が椀を持った左手で指さした先には餌付されるゴキ子の姿がある。

要するに“あーん”をやりたいらしい。男同士で。

 ……“ホ、ホモォ……“の餌食なんて冗談じゃねえ!


「おーけー?」


 何故か自信に満ち満ちた表情で確認してきた馬鹿に、


「んなことできるかー!!」


 ツッコミは卓袱台の下、ゴキ子と山田姉からは死角となる位置、箸ごと握りこんだ右フックが行った。

 受けるのは山田弟の左脇腹。左手で椀を持ち、右手の箸で鍔競合いをしている彼には防御ができない場所を完璧に捉える一撃だ。

 入った。

 ゴフッ、と息なのか声なのか判断のつかない音を出して、山田弟が身を乗り出して前に折れる。身を乗り出した所為で彼の顔が鍋の真上に行き、立ち上る湯気を直に受け、


「あー! あづづづっ! かおっ! 顔があついっ! あついー!」


 あまりの熱さに弟は身を引き、その勢いで背から倒れた。手に持った椀と箸を落とさぬよう両手を天井に向けて突き出した状態で、だ。

 脇腹の痛みに耐えて鍔競合いを続けていた箸が離れる。

 その隙をゴキ子は見逃さず、素早い動きで鍋の中身を椀に取る。ほとんどが肉かと思われたが、しっかり野菜も取っているあたりゴキ子も女の子ということか。

 馬鹿と繰り広げていたのは肉の争奪戦だったと思ったが、ゴキ子的にはそうではなかったらしい。恐らく、その場の流れに乗っかっただけだったのだろう。流石は空気を読むことに定評のある害虫は違うと言ったところか。

 こちらがそんな事を考えている横。鍋の中身を一通り取り終えたゴキ子は、何故か立ち上がり、勝ち誇った表情で山田弟を見下ろし、


「どうですか? 友人に裏切られ最愛の姉も寝取られて地に平伏す気分は!」


 空気が凍った。




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