4匹目:
その後も賑々しく過ごし、気が付けば日が傾きだしていた。
夏至はとうの昔に過ぎ、世間はそろそろ盆を迎えようという頃なのに夏の日は未だ長く、見れば時計の針は既に午後七時を回っている。
窓から差し込む朱の色を受けて口を開くのは坂田だ。
座布団に胡座をかいていた彼は立ち上がり、一度大きく伸びをしてから、
「先輩。夕飯食べていきます?」
問えば、答えは数秒してから、
「そうね。折角だからいただくわ」
控えめに言ってくるが、恐らく元々そのつもりだったのだろう山田姉は、思いついたというように手を打って、
「お騒がせしたお詫びに私が御夕飯の用意をするわ」
口調は柔らかいが、その言葉は提案というよりも断定で、
「姉さん、満漢全席が食べたい」
これは流行っているのだろうか?
と、姉に続いた弟の言葉に要らぬ疑問が生まれるが、
「先輩は一応お客様なんですけど……」
それよりも優先すべきがある。
だから告げたのは、柔らかく断りの意味を込めた言葉だ。
博士の差金で、成分の八割以上が人災で出来ていたとしても、家に来た以上、客は客だ。思っておいて肯定し辛いのがなんとも言い難いが……。
今、俺もお客様―、などと床で転がる馬鹿は人として認めないので客のリストから除外して。
しかし、山田姉はこちらの思いに対し、
「言ったでしょう、お詫びよ。それとも、この家の主は客人の意思を一方的に却下してしまうの?」
両手を顔の前で合わせ、伺うような視線で言ってきた。
後半、刺のある言葉に、若干の無理を感じる。
だが、よくよく考えてみれば山田姉の申し出を断る理由はない。
単純な労力で考えれば、こちらの負担が僅かなりとも軽減されるのだから収支的にはプラス。
ただ不安があるとすれば――、
「あ、姉さんの料理は絶品だぞ」
身内の贔屓目ということはないのだろう。
転がる動きを止めて、四肢を床に投げ出すようにした弟は、それに、と続けて、
「姉さんは、あれで言い出したら聞かない人だから」
「そういうことよ」
弟の言葉に呼応した姉は、既にベッドから立ち上がっていた。
振り返る視線でゴキ子を見て、
「ゴキ子ちゃんも食べてみたいわよねー」
「そうですね。たまには坂田さんの作った物以外も」
いつの間に外堀を埋めたのか。
ゴキ子には昨日、外で食っただろうが、とツッコミを入れたかったが、家での食事と外食はやはり別物かとも思うので止めておいた。害虫にそんな感覚があるのかは知らんが。
ともあれ、現状は自分が意固地になっているだけのように見える。
「はは、お前の負――、げふっ」
いらん口を叩こうとする馬鹿の腹に軽めの爪先を入れる。
威力低めなのは、
「では、先輩。お願いします」
軽く息を吐いてから言葉を発し、頭を下げる。
「はいはーい。お姉ちゃんに任せなさい」
それに軽い口調で返した山田姉は、既に部屋を出るところだった。
何故か右手に長ネギ、左手に白菜装備で。
……新技!? しかし、オチが読める……。
と、内心で驚くこちらに、腹を抑えていた弟が、しかし笑の口調で、
「な。頑固だろ?」
「ああ、新事実だ」




