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ゴキ娘!!  作者: 猫派犬派
49/58

4匹目:




 目下の人災は解決され、今度こそ室内には静寂が訪れていた。


 病人でありながら忙しなく動き回っていたゴキ子はベッドに戻り、騒動の原因であった山田姉がその頭を撫でている。

 目を伏せて気持ちよさそうに喉を鳴らす少女と、その横に座って微笑む山田姉は、まるで睦まじい姉妹のように見える。差し詰め手のかかる妹と、優しい姉と言ったところだろうか。実際はバイオレンスな姉とその予備軍なのだが……。


 そんな二人を眺めるのは男二人だった。

 落ちたり、擦ったり、賢者入ったり、三拍子で忙しかった山田弟と、半透明の袋を漁る坂田だ。

 床に倒れた山田弟を踏みつける坂田は、博士が用意した薬の確認を行っていた。

 先の騒ぎの所為で、ゴキ子が食事を終えてから時間が経ってしまったが、まだ問題ないだろうと考えつつ袋から薬が入ったケースを取り出す。

 どうせ飲み薬だろうと見切りを付けて取り出したそれは、一見すると確かにそうに見えた。しかし、よく見ると違う。紡錘型をしているそれは、


 ……坐薬じゃねーか。


 また尻か、と思うのと額に嫌な汗が浮かぶのは同時。

 幸い、薬はまだ誰にも見られていない。

 だから上半分まで袋から出ていたケースを戻した。しかし、焦って戻した所為いで袋が激しく音を立て、


「どうかしたか?」


 それに足元の弟が反応した。

 こちらの表情から焦りの色を感じ取ったのだろう弟は、口の端を吊り上げた笑で、


「やましいものですか? 坂田くーん」


 わざとらしく言って、両腕を袋へと伸ばしてきた。

 それを袋を持ち上げることで回避し、


「ち、違うわ阿呆。これは単なる薬だ!」


 見下ろす視線に否定の言葉を乗せて送る。


「あら? お薬まだだったのね」


 すると、その否定に今度はベッド側の姉が反応してきた。

 彼女は、空いている手でこちらを手招きして、


「ごめんなさい。私たちが騒いだせいで……、もうとっくに済ませているものだと思ってはしゃぎすぎたわ」


 まったくもってその通りなのだが、そう申し訳なさそうにされると、こちらも言うに困る。

 だから返答は当たり障りのないもの。


「気にしないでください」


 それだけ言って、内心では焦りが濃くなった。

 ゴキ子に薬を与えようにも方法が思いつかない。坐薬を入れるにしても、それをこちらで行うわけにはいかない。現状、ゴキ子本人やらせるか、山田姉に任せるのがベストな判断だと思う。その方法なら済むまで自分たちが部屋から出ていればいい。

 しかし、前者は色々な不安が付き纏い、後者は坐薬を入れたついでと言って葱が来ること請け合いだ。


「何か不都合でもあるの?」


 悩み、動きを止めていたこちらに山田姉が声を掛けてくる。


「あ、ああ、なんでもないです」


 誤魔化すため言い、ベッドの方へと進む。

 そして、すぐに辿り着き、しかし薬を取り出すわけにもいかず、躊躇うこちらに、悪戯っ子のような笑顔で姉が、


「もしかして坐薬だったり?」


 ……す、鋭くていらっしゃる……。


「ま、まさか、そそ、そんなことあるわけないじゃないですか」


 ははは、と笑って誤魔化そうとするが、


「そうよねー」


 言うが早いか、山田姉はこちらから袋を奪い取り、


「あらー?」


 疑問詞つきの感嘆で、袋の中身を持ち上げる。

 そうして取り出されたのは、しかし坐薬ではなかった。

 出てきたのは半透明のプラスチックボトル。中身を褐色に近い色をもつ液体で満たしたそれの正体を、山田姉が告げる。


「小児薬ね」

「お前、高校生にもなる女の子に小児薬はないだろ」


 笑い言うのは、いつの間にか身を起こしてこちらに来ていた山田弟だ。

 彼は、こちらの肩を一度叩くと、


「坂田。君にはロリコンの称号を与えよう」


 裏拳で飛ばした。

 山田弟のくだらない言よりも、


「先輩、袋返してください」

「ん? ああ、ごめんなさい」


 こちらの言葉に山田姉は答え、袋を差し出してくる。

 受け取った袋には、まだ僅かに重みがあり、中身を見れば、底に一枚の紙があった。そしてそれを退けてみれば、その下に坐薬の入ったケースがある。

 なるほどと安堵する一方で、袋に手を入れながら気づかなかった自分は、どれだけ焦っていたのかと呆れもする。

 ほ、と短いと息が出て、


「先輩。ゴキ子に薬を飲ませてやってください」

「はいはーい」


 軽い返事をした山田姉は、


「ゴキ子ちゃん起きられる?」

「あ、はい」


 ゴキ子の返事が来たタイミングに合わせて、ゴキ子の上半身に手を回し、よいしょ、と掛け声つきでゴキ子を起こす。

 起こされたゴキ子は擽ったかったのか僅かに声を上げた。

 それに対し、山田姉は笑み、回した腕を解く。

 続く動きで、ボトルの蓋部分に被さっていた御猪口大のカップに薬を注ぎ、


「はい、飲める?」

「大丈夫です」


 薬を受け取ったゴキ子が一口でそれを飲み干す。

 そして、薬を飲み終えたゴキ子の頭を撫でるまでが一連。

 ……慣れてるな。

 山田姉の流れるような動きに素直な感想が心に来た。


「坂田くん、私の顔になにかついてる?」


 と、見とれていたらしい。


「いや、手馴れてるなー、と」


 隠す意味もないので言えば、山田姉は照れたように、


「手のかかる弟がいるもの」


 微笑つきで山田姉が見つめる先には、床で鼻を抑えている弟がいる。


「何? 俺の話?」


 それに気づいた弟が起き上がり、胡座の姿勢で言ってきた。


「なんでもないから気にしないで」


 と姉は言い、こちらに視線を戻すと、


「納得?」

「ええ」


 一言で肯定する。

 姉が持っていたボトルを受け取り、袋へと戻すと、


「坂田さん」


 ゴキ子が声を掛けてきた。

 上半身だけ起こした彼女はこちらの手元、薬のボトルを注視し、


「おかわりです!」


 山田姉弟が転け、こちらは溜息を一つ入れて、


「晩飯の後でな」


 言って、額を軽く小突いてやった。




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