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ゴキ娘!!  作者: 猫派犬派
46/58

4匹目:




「と、言う訳なの」

「先輩。斯く斯く然々で伝われば誰も苦労せんのですよ」


 呆れ声の行く先、床に座るこちらを見下ろすように、ベッドの縁に座る山田姉がいる。同じくベッドの上には、山田姉から距離を取るようにしたゴキ子が団子状態で威嚇中だ。外出中に何が起こったのかは聞かないほうがいいのだろう。


 ゴキ子からの威嚇を華麗に無視した山田姉は頬に手を当て、


「あらー? 弟くんにはこれで通じるのだけど」


 ……苦労してるんだな……。

 と、弟に同情してしまう。

 その弟は、先ほどテラスから落下してまだ戻っていないが、勝手に帰ってくるのが分かりきっているため大絶賛放置中だ。あの高さで怪我をするようなやつではないので、そちらの心配も無用。

 仮に怪我をしていたとしても、すぐに回復するだろう。あまりの回復力に学内で“不死身のギャグ要員”の二つ名を与えられるほどだ。

 曰く、包帯まみれになっても次のコマには完治している。

 曰く、姉の虐待の賜物。

 曰く、Mの化身。

 曰く、最速のパシリ。

 曰く、対山田姉専用人身御供。

 曰く、便利。

 後半から回復力に対する言及ではない気がする。最後に至っては完全に総評だが、そういう校風なのだということで納得しておこう。

 それよりも今は、


「先輩。ちゃんとした説明をお願いします」

「せっぱ!」


 突如の叫びに数秒間が空き、


「そ、そもさん?」


 困惑の中で問うと山田姉は満足気に、


「通じたみたいね」


 ……いやぜんぜん。

 そもそも、言葉の流れも意味も全て間違っているのだから通じるはずがない。

 それをどうやって伝えたものかと思案するが、


「先輩。説明をわかりやすくお願いします」


 思いつかなかったので素直に聞き直すことにした。

 するとゴキ子の方へ動こうと四つん這いになっていた山田姉が、こちらに顔を向けて、


「ついさっきね、教授に頼まれたの」

「博士に?」

「ええ。電話でね。『私の愚民であり、君の可愛い後輩である坂田が窮地に陥っている』って。それでおもし、もとい、心配になったから弟くんと一緒にここまで来たの」

「今、面白そうって言いませんでした?」

「心配してきたのよ」

「あ、はい」


 釈然としない思いはあるが、あの笑顔には逆らえない。逆らえば即葱だ。スケープゴートがいれば問題ないのだが、今はいない。

 結果、山田姉の言い分を聞き入れるしかないわけで、


「あの、別に窮地に陥ってるわけじゃないんで、できれば帰っていただきたいんですけど……」


 ……というか、あの馬鹿つれて速攻帰宅しろ。

 しかし、こちらの言い分は聞き入れられず、


「折角来たのだからゆっくりしていくわ」


 その台詞は持て成す側が使うものだと思う。

 と、そんなことを思うが、当然、山田姉には伝わらず、


「お土産も持ってきたしね」


 そう言ってベッドの脇に置かれていたバッグを漁り、取り出したものをこちらに差し出してくる。

 山田姉の両手にあるのは、卵だった。

 数は十二。蓋のないパックの中で綺麗に整列したそれは、それぞれ殻の真中に別色のロゴが入っており、そのロゴを中心にやはりそれぞれ異なる模様が描かれている。


「卵ですか?」


 見たままを疑問として送れば、


「ええ、卵。弟くん御推薦のね」


 見たままの答えが返ってきた。弟の推薦という不安なオマケ付きで。

 ただ、形は普通の卵だ。

 だが、そのうちの一つを手に取ってみると、


 ……?


 殻がフィルムで覆われていた。

 そのことを問おうと山田姉を見上げれば、そこには笑の顔がある。剥いでみろ、とそういうことだろう。


 ……?


 フィルムを剥いでみるとやはり疑問が生まれた。

 本来、その殆どをカルシウムで構成するはずの殻が、明らかに人工物で造られていたのだ。

 再度、山田姉に確認を送れば、今度は卵を上下に開くジェスチャーを返してきた。

 だからその通りに殻を開く。すると今度こそ白い卵があった。

 ロゴも模様もないそれは、突くとプリンのように揺れ、すぐに元の形に戻っていく。引っ張れば驚くほど伸び、離せばやはり元の形へと戻る。

 これは少なくとも卵ではない。


「なんですかこれ?」


 こちらの問いへの返答は、またもジェスチャーで行われた。

 それが示す通りに、卵の下に残っていた殻を取り外す。そして裏返してみれば卵の底には穴があった。

 穴の中にはプラスチックの筒があり、そこに銀の袋が収まっていた。

 そこまできて察しがついた。


 ……最悪だ!


 卵の表面にあったロゴを見た時点で気付くべきだった。これは、


「俺のTEN○Aに手を出すなー!」


 こちらの代わりに答えを叫んだのは弟だった。

 やはり無傷で戻ってきた彼は、テラスからこちらに向けて迫ってくる。

 全力疾走の中で右腕を振り上げる弟に対し、こちらは、


「出すか馬鹿野郎!」


 カウンターを叩き込んだ。




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