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ゴキ娘!!  作者: 猫派犬派
41/58

4匹目:




 青年坂田は悩んでいた。

 背後に団子になって拗ねるゴキ子を置く彼は、


「動くなよ」


 背後の団子が震える気配を感じ、ため息を一つ。視界の隅で見て見ればベッドの上、下寄りの位置に団子がある。

 団子は、こちらに向けて顔出し、眉間に皺を寄せて唸っているのだが、こちらが視線を外すと、すぐ這うようにして動き出す。この一連の流れを先ほどから繰り返しているのだ。

 看病する身としては何とかして大人しくさせたいのだが、何度言っても聞こうとしない。そんなアクティブな病人に厄介さを感じつつ、


「うごーくーな!」


 もう何度目かになるセリフでゴキ子の動きを制限しつつ、その額に冷却シートを貼り付ける。

 いきなり額に冷えを得たゴキ子は驚き、


「な、なんですか? え? え? 冷たい! 冷たいですよ!」


 辺りを見回すが、その原因が自らに貼り付いている以上、見つけられるはずもなく、結果、


「私の身体に何をしたんですか!? ち、痴漢は犯罪ですよ!」

「しとらんわ!」


 頭に拳骨を一発。

 ゴキ子が涙目で殴打された部分を抑えているが無視する。

 まったくどこで変な単語ばかり覚えてくるのか。いや仕入先は一つしかないので、あえて問う必要はないのだが。

 ……うん、仕入先には超説教しよう。そうしよう。

 ただ、このまま在らぬ誤解を受けたままにしておくと、今後必ず面倒事に発展する。それを避けるために、


「額、触ってみろ」


 と、自分の額を指しつつ言うと、それに習うようにゴキ子も自身の額を撫で、


「おお! 何か付いてますよ! これが痴漢ですか?」


 なるほど。痴漢という言葉だけで意味は教わらなかったらしい。恐らく、俺に何かされたらそう言えと、そんな曖昧な指示を受けていたのだろう。これは好都合だ。

 間違いを間違いで正すのは本意ではないが、風邪が治ってからでも正しい意味を教えればいいと、この場は、そういう事にして自己完結。


「剥がすなよ。風邪を治すのに必要なものだからな」


 嘘は言ってない。

 そう、ゴキ子の額にある冷却シートは商品名『痴漢』。と、勝手な倫理武装で自分を無理やり納得させる。

 ゴキ子もゴキ子で、それを信じきって嬉しそうに額のシートを弄っているので問題なしだ。

 ……自分の首を絞めてる気もするな。

 そんな風にも思うが、考え始めると深みにハマるのが見えているので、この思考はここで破棄。


「ほら、わかったら大人しく寝てろ」

「嫌です」


 即否定とはこの害虫、まったくいい度胸である。こうなれば、


「実力行使で」


 いつの間にかベッドを降りて床を這っていた団子を持ち上げる。

 すると、団子の中から、グーという音がして、


「坂田さん、お腹が空きました」


 ……無駄にアクティブな理由はそれか。

 普通の人間なら食欲が減衰するところだが、この害虫には関係ないらしい。

 それどころか食欲が肉体を超越してさえいる。

 現に今も、こちらに抱えられながら廊下と居間を隔てるドアを見つめ、ジタバタと暴れている。

 閉じられたドアの先には廊下と一体になったキッチンスペースがあり、そこには朝食用に作った粥があるのだが、


「いい匂いがします」

「お前は犬か……」

「失礼な。元ゴキブリです」


 即答だった。

 そして続けて、


「ゴキ子はお腹が空くと死んでしまいますのん」


 ……ゴキブリの燃費の良さはどこいった。

 ゴキ子の言葉に、そんなことを思いもするが、同時に食料さえ供給すれば大人しくなるのだとも考え、


「食ったら大人しく寝てろよ」

「はい!」


 満面の笑みで返事をするゴキ子に、実は元気なのではないか、とそんな疑問が生まれたので、


「ひぁっ――!」


 ゴキ子の首筋に手を当てて体温を確認。

 ……なるほど。首が弱いのか。

 と、ゴキ子のリアクションに対してズレたことも考えつつ、首から伝わる確かな熱を確認。やはり体温は高い。

 ゴキ子は何が起こったのか理解が追いついていないようで、擽ったそうに身を捩っている。


「さ、坂田さん、手、手を……」

「ん、ああ、すまん」


 一応、謝っておいて、ゴキ子をベッドの上に戻し、


「飯、用意してくるから動くなよ」


 それだけ言ってからキッチンへと移動することにした。




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