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ゴキ娘!!  作者: 猫派犬派
38/58

3匹目:




 告げられるのは、あの場に於いての最善。しかし、残された者にとっては、あまりにも残酷な結果だった。

 それは、


「君の妹君のことを諦め、君への処置に専念すると……」

「見捨てたのか、妹を?」


 こちらからの問いに、女医は目を伏せたまま表情一つ変える事なく、


「そうだ」


 言って、女医は一度息を吸い、


「あの場では応急処置程度の治療が精一杯、だからといって、君たち二人を車内から出し、移送する時間はなかった。

 仮にできたとしても、両方が生き残る可能性は限りなく0。それどころか、二人とも助からないということも有り得ただろう。だが、どちらか一方、いや違うな。君だけに集中すれば確実に治療することが可能だった」


 女医が言っていることはわかる。当時の自分たちの状況も理解できた。

 しかし、駄目だとわかっていても、それでもやるのが医師ではないのか。それに、

 ……これが確実な治療か?

 思い、見るのは左腕だ。

 それに気づいた女医が、


「助け出す際、君の左腕は、歪んだ車体にまで突き刺さった岩塊を抜くことができず、その場にて切断した。同時に、無事だった妹君の左腕も同様に切断し持ち帰り、君に移植したというわけだ」


 それはつまり、


「君の妹君を殺したのは私だ」

「ふざけるな!」


 叫びは二度目の感情の爆発だった。

 だがそれは、先程の制御のきかないショックとは違う。これは、明確な怒りと標的を持つものだ。

 一度暴れた御陰か、軋んでいた身体も動く。まだ、若干の不足は感じるが、

 ……それでも!

 身を捻り、脚を上げてベッドから降りようとして、しかし、金属のぶつかる音が、その動きを途中で止めた。

 音がした方を見れば、捲れた布団、そこにあるこちらの両足首に手錠があった。手錠は足首とベッドのフレームを繋ぎ、動きを縛ってくる。


「アースィス君だな。まったくいらん気を回す男だ」


 嘆息。


「で、君はどうする?」


 女医の問いは、こちらを促すものだ。言いたいことがあるなら言え、とこちらの次を急かしてくる。

 ……だったら。


「質問に答えろ」


 女医は頷き、


「いいだろう」

「どうして俺だったんだ?」

「助かる可能性が高かったからだ」


 質問と答えは一切の間を持たず続く。


「救ったつもりか?」

「それは君次第だ」

「押付けるつもりか?」

「それも君次第だ」

「自分で解決しろと?」

「その通りだ」

「勝手だな」

「そうだ。故に私は君に謝らない。そして自らの行動を後悔しない」

「そんなものは自己満足でしかない」


 女医は、ああ、と言ってから、


「この世界にそれ以外のものはない。全てはそう、自己満足だ」


 こちらは、だったら、と前置きして、


「アンタたちの自己満足のために俺は選ばれ、妹は死んだのか?」


 一拍。

 相手が肯定の答えを返す前に続けて言う。


「アンタは人の命をなんだと思ってるんだ?」


 こちらの最後の問いに、女医は伏せていた目を開き、こちらの真横まで来て膝をつき、視線を合わせ、


「私にとって命とは平等なものだ。例え、それが人のものでなくとも」


 君はどうかね? と女医は問うてきた。そして続けて、


「人に限定して命の重さを問う君は、命についてどう考えているんだ?」

「っ……」


 咄嗟のことに答えることができなかった。いや、落ち着いた状態で同じ質問を受けても自分は、

 ……答えられない。

 そう思った。

 言い淀んだこちらを、女医は鼻で笑い、


「優しいな君は。だが、それは愚かで、間違った優しさだよ」


 と、それだけ言うと、病室から出て行ってしまった。




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