3匹目:
告げられるのは、あの場に於いての最善。しかし、残された者にとっては、あまりにも残酷な結果だった。
それは、
「君の妹君のことを諦め、君への処置に専念すると……」
「見捨てたのか、妹を?」
こちらからの問いに、女医は目を伏せたまま表情一つ変える事なく、
「そうだ」
言って、女医は一度息を吸い、
「あの場では応急処置程度の治療が精一杯、だからといって、君たち二人を車内から出し、移送する時間はなかった。
仮にできたとしても、両方が生き残る可能性は限りなく0。それどころか、二人とも助からないということも有り得ただろう。だが、どちらか一方、いや違うな。君だけに集中すれば確実に治療することが可能だった」
女医が言っていることはわかる。当時の自分たちの状況も理解できた。
しかし、駄目だとわかっていても、それでもやるのが医師ではないのか。それに、
……これが確実な治療か?
思い、見るのは左腕だ。
それに気づいた女医が、
「助け出す際、君の左腕は、歪んだ車体にまで突き刺さった岩塊を抜くことができず、その場にて切断した。同時に、無事だった妹君の左腕も同様に切断し持ち帰り、君に移植したというわけだ」
それはつまり、
「君の妹君を殺したのは私だ」
「ふざけるな!」
叫びは二度目の感情の爆発だった。
だがそれは、先程の制御のきかないショックとは違う。これは、明確な怒りと標的を持つものだ。
一度暴れた御陰か、軋んでいた身体も動く。まだ、若干の不足は感じるが、
……それでも!
身を捻り、脚を上げてベッドから降りようとして、しかし、金属のぶつかる音が、その動きを途中で止めた。
音がした方を見れば、捲れた布団、そこにあるこちらの両足首に手錠があった。手錠は足首とベッドのフレームを繋ぎ、動きを縛ってくる。
「アースィス君だな。まったくいらん気を回す男だ」
嘆息。
「で、君はどうする?」
女医の問いは、こちらを促すものだ。言いたいことがあるなら言え、とこちらの次を急かしてくる。
……だったら。
「質問に答えろ」
女医は頷き、
「いいだろう」
「どうして俺だったんだ?」
「助かる可能性が高かったからだ」
質問と答えは一切の間を持たず続く。
「救ったつもりか?」
「それは君次第だ」
「押付けるつもりか?」
「それも君次第だ」
「自分で解決しろと?」
「その通りだ」
「勝手だな」
「そうだ。故に私は君に謝らない。そして自らの行動を後悔しない」
「そんなものは自己満足でしかない」
女医は、ああ、と言ってから、
「この世界にそれ以外のものはない。全てはそう、自己満足だ」
こちらは、だったら、と前置きして、
「アンタたちの自己満足のために俺は選ばれ、妹は死んだのか?」
一拍。
相手が肯定の答えを返す前に続けて言う。
「アンタは人の命をなんだと思ってるんだ?」
こちらの最後の問いに、女医は伏せていた目を開き、こちらの真横まで来て膝をつき、視線を合わせ、
「私にとって命とは平等なものだ。例え、それが人のものでなくとも」
君はどうかね? と女医は問うてきた。そして続けて、
「人に限定して命の重さを問う君は、命についてどう考えているんだ?」
「っ……」
咄嗟のことに答えることができなかった。いや、落ち着いた状態で同じ質問を受けても自分は、
……答えられない。
そう思った。
言い淀んだこちらを、女医は鼻で笑い、
「優しいな君は。だが、それは愚かで、間違った優しさだよ」
と、それだけ言うと、病室から出て行ってしまった。




