3匹目:
なんとなくわかっていた。
場の空気の変化や医師二人のリアクション。それだけ見ても無事ではないと予測するのは容易だ。
この状況で『無事ではない』という言葉は、家族が自分と比べて同等、もしくはそれ以上に危険な状態であることを示唆している。そして、その中には当然のように『最悪の結果』も含まれているのだ。
しかし、それを事実として聞かされても、現実としての実感がない。ただ、締め付けられるように頭が痛んだ。
結果、女医の言葉に反応することが出来ず、病室内には、ただ女医が包帯を解く音だけが響いていた。
「何も思い出せず、実感がないと、そんなところか?」
「……」
首肯。
「まあ、そんなところだろうな」
言いつつ、女医は包帯を解く手を止めない。
「詳細な説明は省くが、君は事故に巻き込まれ、御両親と妹君を失った。その際、二の腕を岩盤の破片に貫かれ、治療後、一週間は昏睡状態。助かったのは奇跡的、とそう言える」
一拍。
「これを見れば、何か思い出すかもしれないな」
見れば左腕の包帯は半分程が解かれ、肩から肘までの肌を顕にしている。
そこにはあるはずの、説明にあった岩盤の貫通による傷はなく、代わりにひとつの痕がある。
手術痕。
と、そう呼ぶに相応しい痕だ。
肩口から絞ったような括れを描くそれは、傷口を塞いだものではなく、そこにあったものを切り取り、再び繋げた為にできたものだ。
だが、それにしてもこの手術痕は妙だ。
なにしろ、傷の上下で明確な差がある。
上側は浅く日に焼けた肌。下側は対照的に白く、上側よりも一回り以上細い。
また頭痛がきた。今度は、先程の締め付けられるような痛みとは違う、鈍器で打ち付けられたような痛みだ。
「なにか思い出せたかね?」
痛みによる表情の変化に気が付いたのだろう包帯を解き終えた女医は、立ち上がり尋ねてきた。
だが、こちらは返答しない。いや、出来なかったのだ。
自分の目線は、今や肌の全てを外気に晒す左腕と計器に繋がれた右腕を見比べている。
左右の違いは歴然。
太さは一回り以上。長さは手のひら一つ分。指の一本一本を見れば、右は無骨で短く、左は細く長い。
その手には見覚えがある。
これは、
「いもう……、と、の?」
「寝起きの割には頭がよく回っているようだな」
ふ、と一度息をついてから、
「お察しの通り、その腕は君の妹君のものだ」
その言葉が最後の破片だった。
これまでに聞いた医師たちの言葉と自身の中にあった推測が一つに合わさっていく。
そうして出来上がるのは『鍵』だ。
それは『箱』を開くための『鍵』。
自らの心を壊さぬよう、護るようにと封じた記憶の『箱』。
その『箱』が開かれていく。




