2匹目:
全長1.3キロ、アーチ型のガラス屋根と、そこからぶら下がったマンガ肉のオブジェが特徴的な商店街。
一昔前、バブル崩壊の影響を受けてか、それとも付近に建てられた大型量販店に客を奪われたからなのか、兎にも角にもシャッター街となっていたこの場所は、地元の再開発で取り壊される予定だった。しかし、当時の商店街を仕切っていた組合の長がこれに反発、商店街全体の改修計画を発足。
改修の際、組合員の意見を全て取り入れるという暴挙に出た結果、商店街は当時の倍以上の長さとなり、それでも入りきらなかった部分が多かったため、二階と地下スペースを増設し、そこに無理矢理叩き込んだ。そうして商店街と言うよりは、縦横が細く、上下に長いデパートのような施設が完成した。
改修工事の終了後、営業再開を機に、それまで地元の名を冠していた商店街は名称を変更。当時の組合長が肉屋の親父だったことから『ミートン商店街』と名付けられ現在まで名を変えることなく元気に運営中。仇敵であった量販店は、商店街の運営再開とともにひっそりと消えていった。
そんな意味不明な名前で営業を続ける商店街には数々の伝説があった。ただ、その数があまりにも多いのでここでは一部のみ紹介する。
◆
1.一階スペースがすべて肉屋。
これは商店街の名前と同じく、当時の組合長をリスペクトしての行動らしい。
正確には精肉店とフードコートなのだが、飲食店も焼き鳥や豚カツ、ステーキなど肉しか売らないのだ。ちなみに精肉店は牛専門に始まり、豚専門、鶏専門と一般家庭でよく見る食肉が続き、馬、猪、鳩など一般の家庭では入手しづらい肉の専門店まで網羅。その他、加工肉の専門店も軒を連ねる。日本では見ることさえ出来ないような肉の専門店も存在するらしいが割愛。
1.3キロどこを見ても肉、肉、肉。歩くだけで胃がもたれ、胸焼けを起こすこと受合いである。宣伝文句は『ここで買えない肉はない』だ。
2.謎の祭り『謝肉祭』
これまた一階スペース。月に一回、29日に開催されるセール。
セール自体は商店街の全店舗で行われるのだが、一階スペース限定の祭りが同時に開かれる。
祭り中の一階スペースは、筋骨隆々の男どもが、飛ぶは、跳ねるは、肉投げるはで迷惑極まりなかったり、牛と豚を模した着ぐるみのマスコットが徘徊して、目に付いた子供に生肉握らせて無理矢理記念撮影して泣かせたり、大人を発見すると「生ハムバット!」とか叫んで、生ハムの原木型バットで尻を殴打して回るという、気違い行為を繰り返す。
撮影時に使った生肉は、そのまま持ち帰るか、商店街内の飲食店で調理してもらえる。尻バットは、1回1ポイントで10ポイント貯めるとボーナスもう一発の特典付き。どちらにもコアなファンがいるらしい。
ちなみにマスコットの名前は牛が『ビーフンくん』で豚が『ポークンちゃん』 両者、大事な何かを投げ捨てての活動中。
尚、お祭りに使用された肉は、全てスタッフが美味しくいただきます。
お祭りの合言葉は『食べ物で遊ぶな』と各方面に全力で喧嘩を売りにいっている。
他にも『地下駐車場に現れる鶏型マスコット』や『クリスマス! 野菜なんて飾りです事件』など意味不明な噂も存在する。
◆
と、そんな謎多き商店街の二階、吹き抜け近くに設置された休憩スペースに坂田はいた。
地下での買い物を終えた彼は、一度、博士たちと合流、女性陣の買い物はまだ時間がかかることを聞き、一旦、荷物をコインロッカー(冷蔵機能付き)に預け、今、ベンチに座り、彼女たちを待っているのである。
「しかし、休憩所の配置おかしいよな」
視線を上、屋根に向けて固定し、一人、ごちる。
言葉の理由は休憩所の正面、そこにある衣料品店だ。それは、
「……ランジェリーショップの前に造るか、普通」
言って、ため息を一つ。
幸い、休憩所から店内が見えないように配慮されてはいるが、周囲、休憩所の付近を通る人々の視線が痛かった。
特に、先ほど親子連れが通った時なんかは、親が子供の目を隠し「見ちゃいけません」などとテンプレートよろしく、聞こえてくるのだから、たまったものではない。子供は子供で、目隠しをされてからこちらを指差し、「あのお兄ちゃんは何してるの?」なんて言いやがったあたり完全に確信犯だ。
他の休憩所に移動しようかとも考えたが、目の前の店で博士たちが買い物をしているのに、わざわざ離れるのが面倒だったのと、一番近い別の休憩所が500メートル先、しかも大人のおもちゃ専門店の前にあるのだ。それも、店の前に盛り塩ならぬ、盛りTE○GAをする筋金入りの変態ショップ。
何も知らない学生客が「おしゃれだねー」と、そんな反応見せるあたり、流石、有名なデザイン賞を受賞しただけはあると感心したものだ。その学生が見えなくなってから腹抱えて笑ってやったが。
……肉ならなんでもいいのかこの商店街は。
兎に角、そういう理由もあり孤独な戦いを強いられているわけで、
「集中線必須だなこれは……」
と意味のわからない言葉が口ら漏れたりする始末。
ふ、と視界の隅、吹き抜けの中心に立つ柱、そこに設置された時計が見える。
博士たちが店内に入ってから30分以上が経過していた。
「暇だ」




