2匹目:
「満漢全席をお願いします!」
学生御用達。安く、早く、多いがモットーの中華料理店。御世辞にも広いとは言えないその店内に、元気の良い声が響いた。
声の源はテーブル席に座った三人。その中の一人、セーラー服を纏った少女だ。
少女、ゴキ子は店員が注文を取りに来た途端、相手の言葉を待たずにそう言ったのだが、大衆食堂のメニューにそんなものが載っているわけもなく、営業スマイル全開だった店員は、その表情のまま固まってしまった。
そんな状況を見て、ゴキ子の正面、シンプルなTシャツ姿の青年、坂田が、
「あー、すいません。その馬鹿の事は気にしないでください。ちょっと世間に疎い子なので」
言って、言った本人が『ちょっと』の部分に疑問を感じたが、表現を柔らかくするための方便だと解釈。正面のゴキ子が睨んできているが、これもスルー。
坂田の言葉を聞いた店員は、少し慌てた動きで会話の対象を坂田へとシフト。お決まりの文句で注文を取る。
「ご注文お伺いします」
一拍。
「チャーハンを二つ。それと餃子と唐揚げを一つずつ」
自分とゴキ子の分の注文をまとめて行った坂田は、そこまで言って、ゴキ子の横、そこに座る白衣へと尋ねる。
「博士、決まったか?」
問われた博士は、開いていたメニュー表を閉じ、店員へと力強い視線を送る。
そして、
「満漢――」
「やめんか!!」
ゴキ子の奇行の原因を把握。
ツッコミと同時、テーブルの隅に置かれた楊枝入れから中身を一本取り出してを投げつける。
「痛いぞ、愚民」
楊枝は見事に博士の額の中心を捉え、そこに突き立っている。
どうして落ないのか、重力仕事しろ、という意見を無視して、坂田は、
「真面目にやれ。他人様に迷惑をかけるな」
「ふむ、その言だと愚民になら迷惑かけ放題なのだが構わんかね?」
構うわ! と言ってやりたかったが、例によって、ややこしくなるのがわかるので言わない。
「あ、私は海老チリ定食を頼む」
思い出いたように博士が店員へと言う。
聞いた店員は、注文を復唱、三人に確認を行い、一礼してから厨房の中へと消えていった。
それを見送ったあと、博士が、
「ふふふ、ちなみに愚民よ。私は甲殻類アレルギーだ」
「なんでエビチリ注文した!?」
「まー、嘘だがな!!」
……もうツッコミを入れる気力がなかった。




