2匹目:
「坂田さん、お腹が空きましたー」
と、突然の声は、未だ床に転がっているゴキ子だ。
口にジャーキー咥えたまま言われたところで説得力など微塵もないのだが、携帯の時計を確認してみると、確かに昼過ぎだ。心なしか腹も減ったきがする。
さらに博士が、
「いい時間になったな、食事の準備をしたまえ愚民。昼食は中華だ」
さも当然のように、こんなことを言ってきたわけだが、
「出来ないぞ」
そう、出来ないのである。
なぜなら、
「料理をするにも材料がないからな」
少し考えればわかることだが、そもそも、昨日まで一人暮らしだった男の家に、食材が残っていたこと自体が奇跡的、しかも、三人分の食事を二度も用意することができるほどの量が、だ。それもありものの食材だけで、博士の急な要求にも答えられる料理スキルを持った男子つきとなると、尚、希である。
そんな稀有な人材に対して、全く気を使わない猛者が一人、
「恥ずべき失態だな、愚民。私が来るのだから、充分な食料を確保しておくのが義務というものだろうに」
博士に文句を言ってやりたかったが、
「坂田さーん、まーだでーすかー?」
少し目を離した隙にジャーキーを完食した少女の声によって阻まれてしまった。
少女の発した声は妙に間延びした力のないものだった。察するに相当腹を空かせているのだろう。ゴキブリは、人間の髪の毛を一本食べるだけで一ヶ月生き延びると聞くが、目の前にいる元ゴキブリの少女は、
「急いで下さいー。早くしないと死んでしまいますー」
そんな燃費の良さを微塵も感じさせてくれはしないのであった。




