2匹目前座:寝起きのこと
ゴキ子との同居生活二日目の朝、目覚めは最悪だった。
理由は、
「さあ、愚民、早く私の朝食の準備をしなさい」
俺の腰に跨って命令する白衣の所為だった。
「降りろ」
端的に言いたいことだけを言う。
最早、侵入方法について言及するつもりはなかった。如何に対策を講じようと、博士には無駄だということが分かっているからだ。
昨晩、寝るときにベッドをゴキ子に使わせ、自分は床で寝た所為か体中が痛い。
「なんだ愚民、私のような美女に跨られているのに嬉しくないのか?」
「あのな、朝起きたら変態科学者が自分に跨っている状況なんて、危険以外の何物でもないだろうが!」
「言葉に気を付けろよ、愚民」
「お、おい待て。なにを動いて――」
「お仕置きだ」
以下、自主規制。
「朝から散々だ」
「久々に堪能させていただいたよ、愚民」
「私が眠っている間に何があったのでしょう?」
ゴキ子も目を覚まし三人で食卓を囲む。
朝食は博士のリクエスト通りに和食を用意した。白米、味噌汁、焼鮭、出汁巻き卵に漬物。昨日に引き続き、よくも我が家にここまでの食材が残っていたものだ。
「知りたいかね、ゴキ子君」
「もちろんです」
「よし、では話して――」
「やめい!」
その話をされるのは俺の沽券に関わる。
「ふむ、愚民の名誉のために、ゴキ子君、申し訳ないが、この話はまた次の機会にしよう」
金輪際、どんなことがあろうとこの話はさせない。
「残念です」
本気で残念そうな顔をするのは止めて頂きたい。謂れのない罪悪感に襲われるから。