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3 得意技です

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 と言うわけなの、と紗雪は話を纏めて頭を下げた。

「……ごめんなさい」

 垂れた赤銅色の髪のおかげで表情は見えないが、おそらくは凹みに凹んだ顔をしているのだろう。

「やあまあ俺は良いけどさ、別に」

 項垂れた紗雪の肩を、影虎は苦笑して軽く叩いた。

「今度その楓ちゃんと? えー拓也さんだっけ? と会う時に恋人のフリすりゃ良いんだろ?」

「……うん。お願いします……」

「任せとけって。俺ウソつくの超得意だぜ?」

「あんまし褒められたもんじゃない気がするけど……頼りにしてるわ……」

 私のおバカー見栄っ張りーとかぶつぶつと呟きながら、紗雪は頭を抱え込んだ。

 慌てた素振りで紗雪が乾弐班の屯所に駆け込んできたのがほんの少し前。洗濯物を取り込んでいる時だった。

 曰く、しばらくの間恋人のフリをして欲しいとの事。

 紗雪の友人が結婚する事になった。今度その結婚相手と会ってほしいから、紗雪の恋人も是非連れてきてくれ、との事。

 恋人がいると嘘をついてしまった手前どうにも断れず、紗雪は頷いてしまったらしい。そして影虎のもとへ来た。

「つか最近の子は早熟なあ。十七だろ? 十七で結婚とかすげえわ」

 取り込んだ洗濯物を畳みながら影虎は言った。

「私も思う。今の歳で結婚とか想像できないもの」

 大きく嘆息し、紗雪も洗濯物に手を伸ばした。

「あ、良いよ別に」

「ううん、手伝わせて。せめて何かしなきゃね」

「俺の下着とか紫呉のとか普通に交ざってるけど」

「…………まあ、うん……ごめん……」

「いや謝らんくても良いけど。若干恥ずかしいような気がせんでもないけど」

「あーもー私のおバカー今日は良いとこ無しよほんとにもー」

 呻く紗雪に苦笑し、影虎は下着類を手早くより分けた。浴布や夜着などを紗雪の前に押しやる。

「じゃあそっち頼むわ」

「うん分かった……。影虎さんってほんとに気遣いの男ね……」

「っはは、そりゃどーも」

 浴布をきっちり折り畳む紗雪を横目に見やる。髪の合間から首筋の傷がちらりと見えた。

 もうずいぶんと薄くなっている。目を凝らし、注意して見なければ気付かない程だ。痕も残らないだろう。

 影虎の視線に気付いたのか、紗雪が気まずそうに首に手をやった。

「悪ぃ」

 不躾な視線を影虎は詫びる。紗雪は首を振った。

「……もう平気だから」

 傷を軽く撫ぜ、紗雪は小さく笑った。

「そっか」

「うん」

 嘘をつけ、と言いたいところだ。だが、紗雪が平気だと思おうとしているのなら、それを止める理由は影虎には無い。

 身体に傷は残らないだろう。だが、心に負った傷はずっと彼女に付きまとう。

 心の傷と言えば随分と安っぽい言葉だが、あいにく影虎はそれ以外に表現できる言葉を知らなかった。

「ところで二人は? 出かけてるの?」

 暗くなった空気を払拭するように、紗雪は明るい声で言った。

「紫呉は洋んとこ。須桜は実家」

「洋?」

「ま、俺らのお仲間だな」

 ふうん、と紗雪は頷く。以前彼女の護衛についていた男なのだが、それを紗雪に告げる必要は無い。いや、告げても支障は特に無いが、紗雪に例の事件を思い起こさせるのは酷かと思ったのだ。

「紫呉はそのうち帰ってくるだろうけど、須桜はしばらく留守にしてるから」

「そうなの?」

「おー。修行っつーか何つーか、そんな感じ」

 畳み終えた洗濯物を重ねる。

「つか、その例の会合はいつ?」

「えっと、……明後日」

「そりゃまた急だな」

「ごめん。ほんっとごめん。今度何か埋め合わせするから」

「んじゃどっかで何かメシでも奢ってもらうとすっかな。明後日ね明後日。いつ頃?」

「お昼。っていうより夕方ぐらいかしら?」

「ん。了解」

 ならば須桜はまだ帰ってきていないだろう。とりあえずは紫呉の分だけ晩御飯を作り置いておけば良いか。

 その日の飯事情に思いを馳せつつ影虎は頷いた。



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