第67話 メイドさんと初詣のいちご飴②
5円を投げ入れて手を合わせる。
ご縁がありますように、というよりはご縁が続きますようにと祈る。
こういうのって欲深いとだめなんだっけ。後は健康でも祈っておくか。
隣を見れば既に顔を上げたかがりと目が合う。ゆるゆかに持ち上がった唇の端に頬へ熱が集まるのを感じる。
後ろにも人が並んでいる、さっさと番を変わらなければ。
ざっざっと砂利道を鳴らしながら境内を歩く。
「慧さんは何をお願いしたんですか?」
「無病息災かな」
「つまんなーい。やっぱり会社で働くと面白さってなくなるんでしょうか」
「どこからでも煽れるな……外に出ると辛口が過ぎない?」
子どもか。何を願ったらいいんだよ。地球滅亡とか不老不死とかか?
「こんなものですよ、家ではメイドなので抑えてるんです」
「抑えててあれかよ」
「家では優しくて気遣いもできるスーパーメイドちゃんでしょうが」
失礼しちゃうわとばかりに腕へと拳が飛んでくる。
柔らかく受け止めてそのまま自分の手で包み込む。俺は手袋をしてなくて寒いから。
「じゃあおもしろいかがりは何お願いしたの」
ふふんっと自慢げな顔をしながら彼女は手に力を込める。
「働き口が無くならないように、とかですかね」
「俺と変わらんだろ。少なくともおもしろさで言うなら」
「あ、あれいきましょ!」
だめだ、話聞いてないなこれは。
ぐいっと引っ張られた先には屋台が立ち並んでいる。
ソースの香ばしい匂いにポテトや唐揚げの食欲を刺激する香り。
「私あれ食べたいです慧さん!」
やけにテンションの高いかがりは一直線にいちご飴の屋台へ。
この暴力的なまでの匂いの中でいちご飴を選択するところ、やっぱり甘党を極めているらしい。俺は彼女に言われるまでいちご飴の屋台があることにすら気が付かなかった。
「おじさま、3本お願いします!」
3本……?どう考えても多いだろ。人間、腕は2本しかない。
「はいよっ」という声に意識を向けた時には既に遅かった。
お金を払う隙もなくかがりに手渡されるいちご飴。串1本にいちごが3つもついてるじゃねぇか。
にこにこと顔を綻ばせながら彼女は嬉しそうにこちらへと帰ってくる。
「多くない……?」
見たまんまの感想を口にする。
「え、いちご飴をおかずにいちご飴食べるんですよ」
「だめだ、リミッターが外れてやがる。しかも3本とも自分で食べるんかい」
「欲しいんですか?それならそうと言ってくださればもう1本くらい買ってきましたのに」
既に1本食べ終わった彼女は串を渡してくる。おい、主人にごみを捨てさせるな。
しかしそこは心が海のように広い俺、受け取った串を手頃なごみ箱へとシュート。
「認めたくないけど20代の後半になるとそれ1本は中々……」
もっきゅもっきゅと口を動かしながら幸せそうに頬を緩めるかがり。
「こんなに美味しいのに……あ、そうだ」
彼女は残り1本になったいちご飴を俺の口元へと差し出す。
「おひとつどうぞ」
「いいの?全部食べたいんじゃないの?」
「そりゃあもちろん断腸の思いです……でもこういう幸せは共有してこそじゃないですか」
極度の甘党の彼女が俺に甘味をくれるなんて、不思議なこともあったものだ。
お言葉に甘えて俺もかぶりつく。
ぱりぱりの飴を通り過ぎたかと思えば柔らかい口触り。甘さに甘さを掛け合わせた、これまた極度の甘党が考えたとしか思えない味。
自分用に1本買わなくて正解だ。こんなの3つも食べたら胸焼けで行動不能になるところだった。
でも、たまにはこういうのも悪くない。
「ありがとう、やはり歳には勝てん」
「私とそんなに変わらないでしょ、慧さん」
そう言いながら彼女はじとっとした視線を俺へと投げかけた。




