第65話 メイドさんと元旦の朝
「一年の計は元旦にありって言葉、ご存知ですか?」
いつものように少し辛口なメイドさんに足でつつかれる。おい、元旦から足蹴にされる主人なんていないだろ。
時刻は10時、この時間に家にいられる幸せを噛み締めながらこたつでごろごろしていたらこの始末だ。
「元旦くらいゆっくりさせてよ〜」
「それ年末も言ってましたよ」
「それはそれ、これはこれ」
無言でげしげしと背中を蹴られる。
別に家事の邪魔をしてる訳じゃないからいいじゃないか。
「メイドさんもこっち入る?」
前に彼女がしていたようにこたつ布団を捲る。
するとメイドさんは顎に指を添えて目を閉じる。
「うーん魅力的なお誘いですが……しかもご主人様から……でもな〜おせち作らないとですし」
「ちょっとくらいいいんじゃない?」
「お昼少し遅くなってもいいですか?」
答えがわかりきっている問い。現にメイドさんは既に入る気満々だ。
でも元旦におせちを食べられるなんて何年ぶりだ。一人暮らしだと作るのは大変だから買うしかないが、高いんだよなぁ……。
「もちろん」
「では失礼して」
前とは反対に、彼女が俺の隣へとすっぽり収まる。花束のような匂い。
メイドさんが来てすぐは自分の部屋に違う人間がいることに違和感を覚えていたが、今はむしろ彼女の気配がないと寂しく感じるようになった。
俺を足蹴にしていた人間とは思えないほど、彼女はこたつでぬくぬくしている。恐るべきこたつのまりょく。
「メイドさん、一年の計は元旦にありって言葉があるらしい」
「えぇ、存じ上げております。こういう一年もいいと思いませんか?」
確かに。俺も外でひいひい言いながら働くよりは、家でまったりと過ごしたい。
それができたら苦労しないんだが。
無意識にテーブル上のみかんに手を伸ばす。
「あ、ご主人様、だめですよ。私のおせち食べたくないですか?」
「とんでもない!」
慌てて手を引っこめてこたつの中へ。あ、あったかい。
「むしろメイドさんのおせちしか食べたくない。最後の晩餐もメイドさんのご飯がいいくらい」
「そこまで言ってないですよ……冗談でも嬉しいですが」
口に手を当てて笑う彼女。
普段の毅然としたメイドさんも、少し幼いプライベートなメイドさんも、どちらも本当の彼女なのだろう。
以前お父様に聞いた「昔から表情があまり動かない子だった」というのが未だに信じられない。
こんなに感情豊かなのに。
「冗談じゃないよ」
「ではありがたく喜んでおきますね」
そう言って彼女はぐぐっと伸びをして、名残惜しそうに立ち上がった。




