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第63話 メイドさんと年越し②

「んぅ〜名残惜しいけどそろそろ……」


 小さく唸りながら彼女はこたつから脱出する。

 すっぽりと空いた穴と消えた熱が逆に彼女の存在を強調する。言い換えれば、単純に寒い。


 ぱんっと頬を叩いてメイドさんは甘い雰囲気からいつもの雰囲気に戻った。


「ではお蕎麦、作り始めますね」


 さっきまでのあれはなんだったんだ。


「うわぁ、いつものメイドさんだ……」


「何言ってるんですか。私はいつもこうですよ」


「さっきまでは『めいどさん』って感じだったじゃん」


「何を訳のわからないことを……あ、ご主人様が訳わかんないのはいつものことか」


「おい、隙あらば他人を煽ろうとするなよ」


「他人じゃなくてご主人様です。初対面の人を揶揄ったらただの嫌な人じゃないですか」


 聞き捨てならないことを言っている。


「メイドさんの中の優先順位がわかんないよ……俺雇い主なのに」


 近付いてきた彼女は布団を俺に掛け直すと、髪にくしゅっと触れる。


「はいはい、美味しいお蕎麦作るのでご主人様はそこで温まってください」


 そう言い残して彼女はたたっとキッチンへと歩いていく。

 程なくして出汁のいい香りが部屋を満たす。キッチンで調理器具や食器が当たる音は、不規則なはずなのにどこか心地よい。

 まるで生活がそのままリズムになったかのようで……だとするならば彼女は奏者か。


 簡単なことでも手伝い気持ちはあれど、あそこに踏み入れるといつも追い返されてしまうのだ。結局いつか言ってたコーヒーの淹れ方も教わってないし。


「メイドさん、手伝ってもいい?」


「だめです!ここは私の聖域なので」


 ほらこの通り。

 キッチンは最早彼女の城である。一人暮らしをしていた頃からは様変わりしていて、溢れんばかりの調理器具が所狭しと、しかし綺麗に並べられている。


「ご主人様はねこみたいに丸まってればいいんです」


 煽られているのか気を遣われているのかわからないなもう。


 そんな話をしていると、やがてぽこぽことお湯の沸く音がした。


「そろそろできます、食べられそうです?」


「うん、お腹空いてきた」


「じゃあちゃっちゃと作っちゃいますね」


 その言葉から数分後、彼女がお椀を持って戻ってきた。立ち上る湯気に優しい香りに食欲が刺激される。


「あ、テーブルの方じゃないんだ」


「あっちだと足が寒くて寒くて」


 たまにはこっちでテレビでも見ながらゆっくり食べるのもありか。

 時刻は既に0時近い。


 来年もどうかこの縁が切れることなく続きますようにと願いを込めて、俺は手を合わせた。


「「いただきます」」


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