第61話 メイドさんと仕事納め
「ご主人様、今年もお疲れ様でした」
いつものように家の扉を開けると、メイドさんに出迎えられる。
「ありがとうメイドさん、なんとか納まったよ」
今日は仕事納め。
嫌な雑務は全て来年へ投げて、仮初の充足感をちゅーちゅーストローで吸うかのごとく味わうのだ。
「残業かなと思ってましたが、定時で帰られたんですね」
「こんな最終日まで残りたくないからね」
ジャケットと鞄を彼女に預ける、そのまま靴を脱いでスリッパに履き替えるまでが一連の流れだ。
「メイドさんも仕事納めしていいのに……ってこれは前にも言ったか」
相も変わらずメイド服に身を包む彼女に目をやる。
「えぇ、主人あるところにメイドありです。ご主人様がこの家にいる限りは私はメイドですので」
「実家に帰ったりとかは……」
「この前帰ったからいいでしょう」
ぴしゃりと返事される。
「メイドさんも自由な時間って必要じゃん。特にこれから俺が休みに入る訳だし」
少なくとも1月3日までは休みだから、その間は昼も家にいることが多くなる。
彼女がうちに来てから今までここまで長期の休みはなかったからどう思われるか……。
「ご主人様が昼間家にいるから私の邪魔になることを心配していると」
思考が読まれる率が高くなってきたな。どうしたら対策できるんだろう。
「まだ何も言ってないんだけど、概ねその通りかな。いつも俺のために色々してくれてて嬉しいけど、俺がいると逆に邪魔かなって」
感謝を伝えつつも、お休みを促してみるが。
「ご主人様の考えることくらい手に取るようにわかりますよ。えぇ、専属メイドなので。何年一緒にいると思ってるんですか」
早口でぺらぺらとまくし立てるメイドさん。こういう時はだいたい、
「まだ半年だよ。もしかして照れてる?」
「ばっ……!突然何を!」
顔を背けながら俺を部屋に押し込もうとぐいぐい背中を押している。
素直に褒めるとこうやって照れてくれるからかわいいのだ、うちのメイドは。
「はいはい、じゃあ年末年始もよろしくねメイドさん。お昼は一緒にだらだらしよう」
「甘いものは?」
「もちろんありで」
うちにどれだけ甘味がストックされてると思ってるんだ。
知らないうちに増えていく洋菓子の数々。
メイドさんのことだから腐らせることは無いだろうけど、消費は少しずつでもしていかなければ。
「ならばご一緒します。ひとまず今日は、1年間頑張ったことですしゆっくりご飯にしましょうか」
音もなくリビングへと消えるメイドさん。
俺は胸元に光るピンを外して丁寧に小物入れに置く。まさか自分にもサンタさんが来るとは思っていなかった。
起きたら枕元にプレゼント、贈り主がわかるからこそ嬉しさもひとしおで。
手早く着替えた俺は、美味しいのが確定している香りに期待を膨らませながら、先ほど彼女が消えていった扉を開けた。




