第54話 メイドさんへのプレゼント選び⑤
鍵を差し込んで少し待つ。
毎度の儀式だが、なんだか懐かしい気がする。数秒後扉を引くも、明るいリビングから音は聞こえない。
いつもの迎えがない、もう寝てしまったのだろうか。それにしては電気をつけたままだなんてメイドさんらしくない。
まぁ遅く帰ってきたのは俺の方だ。せっかくだからこの小さいながらも目立つ箱は自室で眠ってもらおう。
自室にプレゼントと鞄を置いて部屋着に着替える。
足音を立てないように廊下を歩くと次第に聞こえてくるのは規則正しい寝息。
前にもこんなことあったっけ。
リビングに入ると寝息の主は部屋の真ん中に陣取っていた。
ソファに丸まったメイドさんはまさにねこ、尻尾や耳がぴくぴく動く幻覚さえ見えそうだ。
さっきの東雲との会話を思い出す。
誰かに聞かれた時すぐに答えられないのだ、俺たちの関係を。
友人にしては一緒に過ごす時間が長い、恋人と言うにはあまりにも遠い。そもそも恋人になるなんて未来が訪れるのか。
そこまで考えてハッと目を見開いた。
ずっとメイドさんと過ごすこの日々が続けばいいな、なんて簡単な願いさえ、自分の心の奥深くに沈んでいたことに気がつく。
多分頭の中には常にあって、それでもありえないと断じた心の中の自分が、名前をつければこの関係が終わってしまうと理性的に考えた自分が、勝手に気持ちに蓋をしていたのだろう。
関係に名前が無くとも、実が伴っていればそれでいいのだ。
彼女の頭の傍に腰掛ける。危機感無さすぎだろ、一応男性の部屋で過ごしているということをちゃんと認識して欲しい。
「もし出会い方が違えば」
すぅすぅという寝息はまるで夜に降ったBGMみたいで。こんなこと言わなくてもいいのに、万に一つ聞こえてればいいなんて身勝手な思考が頭を走る。
「もし出会い方が違ってたらさ、友達くらいにはなれたんだろうか」
寝返りで顔にかかった髪を払い除けるメイドさん。それも毛繕いするねこの仕草によく似ていて。
何が気に入らないのか、眉をひそめて何度も前髪を払う仕草に思わず笑ってしまった。
乱れた前髪に慎重に触れていつもの位置に戻すと、穏やかな寝顔に戻る。
胸の奥から溢れる気持ちを、なんと形容してよいか分からない。
じんわりと温かいのは、冬なのに熱い体温のせいだけじゃないはずだ。
起きるまでのあと少しの間、俺は彼女の寝顔を堪能するのだった。