第53話 メイドさんへのプレゼント選び④
「匂い系は避けたいなぁ」
「香水とかってことです?」
「そうそう」
家だと使いづらいだろうし……というかメイドさんが外に遊びに行くのをほとんど見たことないけど、友達とかいるんだろうか。
いや、失礼な意味じゃなく。今一瞬頭の中にぷんすこ怒っているメイドさんが見えた。
「……聞いてますか、先輩ってば!」
かなり近くで聞こえる東雲の声。
一気に現実に引き戻される……なんだから遠くでメイドさんが腕組みしてる気がする。
「悪い悪い、ちょっと意識飛んでた」
「実は今日仕事忙しくて疲れてたりします?」
思い返せば今日は……というか毎日忙しい気がする。
「ごめんなさい、聞いた私が馬鹿でした。毎日忙しいですもんね」
「疲れてるとかじゃないから!」
「それでですね、消え物とそうじゃないのどっちがいいです?」
百貨店の案内板を見て合点が行く。なるほど、エリアが違うのか。
これだけたくさんのもの売ってても売れてるってことだよな、すんごいわ。
「消え物って言うとケーキとかかな」
「ふっ」
思わずといった感じで東雲の鼻が鳴る。
「おい、鼻で笑うな」
「いやちょっと安心したというか、最初に出てくるのがケーキって先輩ぽくないなって」
確かに、アラサーの社畜がプレゼントとして最初に挙げるのがケーキってのもちょっと似合わないな。
どう考えても某メイドの影響を受けている。
「まぁいいじゃん、俺的には残る方がいいかな」
「その心は?」
いや恥ずかしいって。
「言わないとだめ?」
「言わなきゃ帰りますよ」
どうして俺の周りの数少ない女性陣はこんなに押しが強いんだ。
「初めてだから、プレゼント贈るの」
「へぇ〜〜〜〜〜!」
電車で見たようなもにょっと動く口。どういう感情なんだそれ。
そしてそれ以上何も言わずにずんずんと東雲は進んでいく。それは会社を出て駅まで歩くスピードよりずっと早くて。
「ちょ、はやいって」
「着いてきてください!まったく……そんな顔ずるいじゃないですか……」
最後の方は聞こえなかったが、大方俺が責められているんだろう。
「なにかその人のことでわかることとかないです?」
今日何度目か、頭の中にメイドさんを召喚する。買い物帰りに会った時のこと、ソファで丸まってる時のこと、縁側で月を見た時のこと。
「寒がり、かな?」
こんな暖色の照明に包まれた百貨店の中でも、あの白い息が漂う月の夜のことを鮮明に思い出せる。
「じゃあもうほとんど決まってるじゃないですか……私要りました?今日」
「待って、全然わかんないんだけど」
「もう〜〜こっち来てください!」
そう言って再びずんずん歩き出す彼女に、ちょっと怯えながらも俺はなんとかついて行った。
◆ ◇ ◆ ◇
東雲が足を止めたのは婦人服のエリア。
目の前には色とりどりのマフラーやコートが並んでいた……とはいっても落ち着いた色ではあるが。
「さぁそれじゃあ選びましょっか」
自分の女性経験の無さがあだになる。どの色が似合うとか全然わからん。
「うーーーん?」
「そんな微妙な顔しないでくださいって」
上品に笑う彼女はやっぱり、やっぱり俺が教えていた時と違って大人っぽく見える。
「ちなみになんですが、プレゼントをお贈りする方のお名前って」
「メイ……」
「めいさんですか?」
あっぶねぇ。俺の理性、よく口を閉ざした。
このままじゃ俺もメイドさんのこと笑えないな。
「かがりさんだよ」
外で、しかも他人にこの名前を告げるとざわざわする。
まるで内側から背中を指でなぞられているような。
「どうやったらその言い間違えになるんですか……その人のこと思い浮かべて最初に出てくる色は?」
そんなのあの2色しかないだろう。
「黒と白」
「どうしてこういう時だけすぐに出てくるんですか」
あとは何を買うか決めるだけ。いやはや、プレゼント選びって難しい。
ゆっくりと歩き回りながら商品を見て回る。
あとは感覚だ、なんて無責任なことを考えながらふと目が止まる。
あの細くて長い指を思い出しながらそれを手に取る。
彼女がメイド服を着ている時にこれを着けることはないのはわかっているが、どうしてもその光景が頭から離れない。
「決まりました〜?あっ」
東雲が俺の手元を見て声を上げる。
「センスいいですね、先輩」
「これにしようと思う。たくさん考えてくれたのにこんなにすぐ決めてごめん」
「いえいえ!こういうのは感覚ですから」
さっき俺が考えていたことだ。
「それにしてもかがりさんってば羨ましいな〜私もクリスマスプレゼントを真剣に選んでくれる人いないかな〜」
心なしか視線を感じる。
「ちょっとお会計してくる、待っててな」
逃げるようにレジへ並ぶ。
しかし彼女にお礼をしなければいけないのは確かなわけで。
先程通り過ぎたお店を頭に浮かべながら、俺は財布を取りだした。




