表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/78

第51話 メイドさんへのプレゼント選び②

「予定とか大丈夫だったか?今聞くことじゃないんだが」


 もう暗くなった道を歩く。会社から駅までは意外と人がいない。

 隣を歩く東雲は俺の後輩で、彼女が新卒の時に教育係として面倒を見ていたのだ。今は俺が異動したからあまり会うことはないが、社内で見かけると軽く立ち話はする仲だ。


「大丈夫ですよ〜それに先輩の頼みですから〜!初めてじゃないですか?藤峰先輩から誘ってくれるなんて」


 そうだったっけ。

 彼女が新卒だった時も、なるべく業務以外では関わろうとしなかったからな。

 東雲から誘われたら行ってはいたけど、それも俺の異動でぱたりとなくなってしまった。


 街灯がぼんやりと光を放っている。

 まるで雪でも降るんじゃないかと思うほど気温が低い。やっぱり朝晩の通勤は辛いものだ。


 俺も彼女も息を吐くと白いもやが視界を横切っていく。


「なんだか便利使いしてるみたいで申し訳なくなってきた」


 俺から誘うことはほとんどないのに、誘ったと思えば他人へのプレゼント選びだなんて、薄情だよな。


「ほんとに!前は私から沢山誘ったのに!」


「悪い悪い、埋め合わせはいつかするから」


 とはいえランチにもディナーにも連れていくのは難しいのが現実だ。主に自分の……というか自分とメイドさんの生活リズム的に。


「どうせ先輩は飲みに連れていってください〜とかおねだりしても連れてってくれないでしょ」


「そ、そんことないけど」


 彼女がほんの少しだけ後ろにいるのを見て歩幅を狭める。いつも身長高めのメイドさんと歩いているからか、ペースが早くなっていたらしい。


「目が泳いでるんですよ、あ〜じゃあそしたら!」


 東雲はスマホの上でぽちぽちと指を跳ねさせると、そのまま画面をこちらへと向ける。


「今度先輩の部署の人誘って飲み会企画するので、そこに来てください。普段集まりに来ないから、先輩ツチノコだと思われてますよ?」


「誰がツチノコだ誰が」


「そういう連絡来ても速攻で『欠席』にするでしょ?特にここ半年くらい」


 駅に近付いてくると、まばらだった人影もその密度が高くなる。

 必然的に俺と東雲の距離も近くなるわけで。


「俺、家大好きだから。あと単に仕事が忙しい」


「……忙しいのはよく聞きますけどそこまでですか……先輩の部署の人、あんまり外で見ないですもんね」


 やめろ、哀れみの目で見るんじゃない。お前もいつかこちら側に来ることになるんだからな。

 今一緒に働いている同僚の中には、俺や東雲がいた部署を経験してきた人も少なくない。ということは、この後輩もいずれはうちに来る可能性が高い。


「なんでそんなニヤついてるんですか」


「いやぁ数年後、東雲もこっちに来るだろうなと」


「いや、全力で拒否しますけど」


「そんな簡単に人事異動が拒否できると思うなよ……俺ら先人が拒否しなかったとでも?」


「え、普通にやだな」


 人の所属部署をなんだと思ってるんだ。


 馬鹿なことを話している間にも改札を抜けて、いつもとは反対方向へ向かうホームへ。


「そういえば今日って何するんでしたっけ」


「ちょっとプレゼント選びを手伝って欲しくて」


 腕を組んでむんっと頬を膨らませる東雲。


「いっつも先輩は情報が足りないんですよ、いつ、どんな人に!……あ、『いつ』はわかるか、クリスマスですよね。私をわざわざ呼ぶってことは……女性か」


「聡明で助かるよ」


「そりゃあ先輩に育てられましたから」


 そうやって笑う東雲は昔の面影を残しながらも、俺が知っている彼女より幾分大人っぽく見えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ