第51話 メイドさんへのプレゼント選び②
「予定とか大丈夫だったか?今聞くことじゃないんだが」
もう暗くなった道を歩く。会社から駅までは意外と人がいない。
隣を歩く東雲は俺の後輩で、彼女が新卒の時に教育係として面倒を見ていたのだ。今は俺が異動したからあまり会うことはないが、社内で見かけると軽く立ち話はする仲だ。
「大丈夫ですよ〜それに先輩の頼みですから〜!初めてじゃないですか?藤峰先輩から誘ってくれるなんて」
そうだったっけ。
彼女が新卒だった時も、なるべく業務以外では関わろうとしなかったからな。
東雲から誘われたら行ってはいたけど、それも俺の異動でぱたりとなくなってしまった。
街灯がぼんやりと光を放っている。
まるで雪でも降るんじゃないかと思うほど気温が低い。やっぱり朝晩の通勤は辛いものだ。
俺も彼女も息を吐くと白いもやが視界を横切っていく。
「なんだか便利使いしてるみたいで申し訳なくなってきた」
俺から誘うことはほとんどないのに、誘ったと思えば他人へのプレゼント選びだなんて、薄情だよな。
「ほんとに!前は私から沢山誘ったのに!」
「悪い悪い、埋め合わせはいつかするから」
とはいえランチにもディナーにも連れていくのは難しいのが現実だ。主に自分の……というか自分とメイドさんの生活リズム的に。
「どうせ先輩は飲みに連れていってください〜とかおねだりしても連れてってくれないでしょ」
「そ、そんことないけど」
彼女がほんの少しだけ後ろにいるのを見て歩幅を狭める。いつも身長高めのメイドさんと歩いているからか、ペースが早くなっていたらしい。
「目が泳いでるんですよ、あ〜じゃあそしたら!」
東雲はスマホの上でぽちぽちと指を跳ねさせると、そのまま画面をこちらへと向ける。
「今度先輩の部署の人誘って飲み会企画するので、そこに来てください。普段集まりに来ないから、先輩ツチノコだと思われてますよ?」
「誰がツチノコだ誰が」
「そういう連絡来ても速攻で『欠席』にするでしょ?特にここ半年くらい」
駅に近付いてくると、まばらだった人影もその密度が高くなる。
必然的に俺と東雲の距離も近くなるわけで。
「俺、家大好きだから。あと単に仕事が忙しい」
「……忙しいのはよく聞きますけどそこまでですか……先輩の部署の人、あんまり外で見ないですもんね」
やめろ、哀れみの目で見るんじゃない。お前もいつかこちら側に来ることになるんだからな。
今一緒に働いている同僚の中には、俺や東雲がいた部署を経験してきた人も少なくない。ということは、この後輩もいずれはうちに来る可能性が高い。
「なんでそんなニヤついてるんですか」
「いやぁ数年後、東雲もこっちに来るだろうなと」
「いや、全力で拒否しますけど」
「そんな簡単に人事異動が拒否できると思うなよ……俺ら先人が拒否しなかったとでも?」
「え、普通にやだな」
人の所属部署をなんだと思ってるんだ。
馬鹿なことを話している間にも改札を抜けて、いつもとは反対方向へ向かうホームへ。
「そういえば今日って何するんでしたっけ」
「ちょっとプレゼント選びを手伝って欲しくて」
腕を組んでむんっと頬を膨らませる東雲。
「いっつも先輩は情報が足りないんですよ、いつ、どんな人に!……あ、『いつ』はわかるか、クリスマスですよね。私をわざわざ呼ぶってことは……女性か」
「聡明で助かるよ」
「そりゃあ先輩に育てられましたから」
そうやって笑う東雲は昔の面影を残しながらも、俺が知っている彼女より幾分大人っぽく見えた。