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第50話 とあるメイドの予兆

side:御堂かがり


『ごめん、今日飲み会で早くは帰れなさそう。ご飯食べててね』


 そんなチャットが来たのは、私が家でお昼ご飯を食べている時だった。

 ご主人様にお弁当を作るようになってから、お昼は私も彼と同じものを食べるようにしている。……美味しくできたか不安だし。


 うーん、これは飲み会じゃないな。


 なんの根拠もなければ理由もないが、確信が私の頭を支配する。私の勘は当たるのだ。

 ご主人様は私のことを舐めてるんだろうか。ここ数ヶ月で培われた私の「ご主人様理解力」は尋常ではない。それなのに彼は私のことを全然わかってない。


 まぁ理解されたら困ることもあるんだけれど。


 ご主人様の優しい性格なら、飲み会があるなら事前に私に言うはずだし、突然入る飲み会なら電話してくるはず。「私がもう買い物してたら悪いから」とか言って。


 それでも私はあくまでメイド。主人がいつ帰って来てもいいように、家を準備しておくのが仕事だ。


『かしこまりました、お気を付けて行ってらっしゃいませ』


 これ以外の返事をすることは、まだ相応しくないだろう。


「ご主人様いないのか〜」


 突如やる気がなくなる。

 メイドをする前は、自分でご飯を作ると食べたいものを食べたいだけ食べられるからあんなに幸せだったのに。

 今は私の作ったご飯で彼の表情が明るくなるのを見たくて仕方がない。


 自慢じゃないが、家事に関して言えば私はかなりできる方だと思う。もちろんかなめさんにはまだまだ適わないが。

 あれはもう家事とかいう範疇を超えてる。まるでエスパーかのように先読みして、ありとあらゆる可能性に対応できるように準備されているのだ。


 洗い物を終えてソファに沈み込む。昨日はここでご主人様がくつろいでいた。誰に会うわけでもないから、この戦闘服に皺が入っても気にしない。

 丸まってみても彼の温かさは残っていなくて。


「早く帰ってこないかな」


 気持ちが口から漏れ出すが返事をする人はいない。

 今日の晩ご飯は適当でいいや、なんて思ったところで私の瞼は重力に負け始める。


 沈みゆく意識の中で流れたあの言葉、「メイドさんってさ、欲しいものある?」


 そんなの答えは決まっていて。でも普通のサンタさんじゃ用意できるものでもなくて。

 何かの奇跡で叶うよりも、自分の力で掴み取りたい。


 あなたの心です、なんて当然言えるはずがないのだ。


 苦いのは苦手だ。やっぱり人生は甘くないと。

 だから一歩を踏み出したせいでこの関係、もとい契約が終わってしまうくらいなら、このままでもいいと思うのだ。


 あぁ、主人とメイドってなんてままならない関係なんだ。

 吐いたため息は、私が眠りに落ちるまで暖房のきいた部屋を漂った。

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