第49話 メイドさんへのプレゼント選び①
『ごめん、今日飲み会で早くは帰れなさそう。ご飯食べててね』
そんなチャットを送ったのはお昼休み。今日も彼女の作ったお弁当を食べてなんとか午後からのモチベーションを保つ。
『かしこまりました、お気を付けて行ってらっしゃいませ』
飲み会なんて嘘で、彼女へのプレゼントを選ぶのだ。
罪悪感に少し胸がズキっと痛む。
しかし、嘘をつく以外に隠れて買いに行くなんてできない。普段の行動パターンはおろか、交友関係が皆無なことすらバレているんだから、説得力のある理由がないとプレゼントを買いに行ったことが丸わかりだ。
それにしてもこの前、初見殺しまで使って聞いた欲しいものの情報は何の役にも立たない。
「欲しいものですか……本当に欲しいのはお金じゃ買えないんですよね。それに自分の力で掴み取ってこそだと思ってるので」なんて哲学めいたこと言ってたし。え、友情とか努力とか勝利とかそういう話?
「まぁでも、気持ちのこもったものなら私はなんでも嬉しいですよ、ご主人様」そう言った彼女の慈愛と期待が混ざった表情は、俺を唸らせるには十分すぎて。
しかし女性へプレゼントなんて最後にしたのはいつだろう。自分と相手の年齢を考慮してって……そんなハードルが高いこと、一般社畜には難しい。
途方に暮れた俺は、恥を忍んでその道のプロに頼ることにしたのだ。家事が苦手なら家事代行サービスを契約すると同じだ。
餅は餅屋、家事は家事屋……メイドか、若い女性へのプレゼントは若い女性に聞くのが1番って訳だ。
◆ ◇ ◆ ◇
もんもんと業務をこなしていく、気がつけば空は暗い。今日が作業ばかりで助かった。
会議や顧客対応があると、頭の中に響く自分の声を無視せざるを得ないからな。
開いているファイルを全部消してチャットのタブへ切り替える。
『仕事終わりそうだ』
こういう時に頼れる女性なんていない……と言いたいところだが、一人だけ思い当たる人がいるのだ。
『私も今終わりました、下で待ってますね!』
実際に会うのは久しぶりだ。元気だろうか。
エレベーターに乗り込んで1階のボタンを押す。ぶぅんと動くエレベーターに耳が少し遠くなる。
最近メイドさんとしか外を2人で歩くことがないから、なんだか緊張してきたな。
プライベートで会社の人と会うこともほとんどないし、何を話したらいいんだ。
機械音声のアナウンスに引っ張られるように扉がゆっくり開く。
閑散としたロビーには白いロングコートに身を包んだ女性が一人、立っていた。モコモコのマフラーを首に巻いた彼女は完全防寒、まるで冬の妖精みたいだ。
「会うのは久しぶりですね、藤峰先輩?」
先程聞いたエレベーターのアナウンスとは対照的な温かい声。
「突然呼び出してごめんね、今日は頼りにしてるよ、東雲」
艶のあるピンク色の唇を綺麗に上にあげて、彼女はにっこりと笑った。