第47話 メイドさんとお肉屋さんのコロッケ②
「ここです!」
ばーん!っと効果音が付きそうなほどドヤ顔でかがりが指し示したのは、お肉屋さんのホットスナックだった。
奥に入れば生肉たちがケースの中に鎮座しているが、外ではやはり寒いのか衣を着ている。そう、コロッケだ。
「聞いてくださいよ慧さん」
「なんでも聞くよ」
「やった〜!ではなくてですね」
こうやってノってくれるところが好ましいと感じる。
そういえばお父様は厳しく育てすぎたと言っていたが、ゲームが強かったり、やけにノリがよかったりと俗世間に塗れたところもある。
一体何が原因……いや、理由でこうなったんだろう。
「私、夕方にお買い物してたんですよ」
「うん、いつもありがとう」
「いえいえお仕事ですので……それでこの近くを通った時に、とんでもなくいい匂いがしまして」
それで釣られてふらふら歩いているとここに行き着いたと。
感覚で生きてるじゃねぇか、動物の本能むき出しだ。
「かがりってさ」
「はい、なんでしょう。なんだか私に不都合なことを言われそうな気がするんですが、耳を塞いでもいいですか?」
「主人の俺がかがりの話なんでも聞くのに?」
「あーもうこの人は!」
ポコッと肩をグーで叩かれる。家庭内暴力じゃん。
「ごめんって、それでかがりってさ」
「えぇ……!?続けるんですか?」
続けるだろ、俺が彼女のことを揶揄える機会なんてそうそうないんだから。
「欲に忠実だよね」
かがりの表情を見る前に店員さんがこちらへ歩いてきた。
数十秒後、俺の手にはコロッケが2つ。
湯気立つホクホクの塊は胃袋を刺激する。茶色のものなんて大体カロリーが高くて、とんでもなく美味しいんだから。
「では慧さん、私は鞄を持つのに忙しくて欲に忠実なのでコロッケを食べさせてください」
俺の返事を待たずに口を大きく開けるかがり。
「雛鳥かよ」
「意地悪などこかのご主人様への仕返しです」
口をぱくぱくさせながら、早くしろと彼女は催促する。
「かわいい仕返しだな」
紙の持ち手に包まれたコロッケを彼女の方へ向けると大きな口が近付いてくる。
餌付けしている気持ちになるな、これ。
彼女が落ち着くのを待って俺も自分のコロッケにかぶりつく。
サクサクの衣にほくほくのじゃがいもはもちろん、細かい玉ねぎの香ばしさと牛肉の旨みが口の中に広がる。
うーんパーフェクト。
「かがりって甘くないのも好きなんだ」
「美味しいものならなんでも好きですよ、人類みな」
「突然主語を大きくするのやめて」
「真理ですから」
ふふんっと得意げな顔をしているが、口の周りに衣が付いている。
自分のハンカチで彼女の口周りを拭うと、俺は安心しきったかがりから鞄を奪い取った。
「あ!」
「さっきまで持ってもらってたからさ」
小腹も気持ちも満たされて、俺たちはゆっくりと家へと向かって歩いた。