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第46話 メイドさんとお肉屋さんのコロッケ①

『ご主人様、いいものを見つけたので駅に着く時間がわかったらご連絡ください』


 会社を出るとスマホにメイドさんからのチャットの通知。

 彼女がうちに来た時からは考えられないような内容、こうやって連絡をくれることが、砂漠のような社会人生活でどれだけ潤いとなるか。


 でももうちょっと詳しく教えて欲しいな。いいものってなんだいいものって。アバウトが過ぎる。


 最寄り駅に着くまであと数十分、「いいもの」の内容でも想像しながら過ごそうか。

 なんて考えながら、俺は電車が最寄り駅に着く時間をスマホに打ち込んだ。


◆ ◇ ◆ ◇


 今日も変わらず、社畜を大量に乗せた電車はホームへ滑り込む。ドアが開いてどばぁっと吐き出された人々は皆同じ方向へと流れていって。

 もちろん俺もその中の一人だが。


 改札を出ると壁にもたれかかったメイドさんを見つける。目を閉じる様子は、まるでその空間だけ時の流れが止まったかのように見える。


「ただいまメイドさん、待たせちゃったね」


 雑踏の中でも俺の声は届いたらしい。静かに瞼を上げると、彼女は唇を持ち上げた。


「おかえりなさい、慧さん」


 あぁ外だから。なんだか俺の名前を呼ぶことにどんどん慣れてないか……?もはや口ごもりもしなくなってるじゃん。


「それでどこに連れて行ってくれるの?」


「こっちですこっち」


 今日のメイドさん……いや、かがりはかなり身軽だ。手には小さな財布とスマホ、鞄の1つも持っていない。どうやらスーパーでの買い出しは既に終わっているみたいだ。


「あ、鞄持ちましょうか?仕事終わりでお疲れでしょうし」


「いやいいよ、ありがとう」


「よよよ、メイドなのに鞄も持たせてもらえない……いつも家では玄関で預けてくれるのに……」


 泣き真似をしながらも口調は楽しそうだ。


「でも外ではメイドさんじゃなくてかがりでしょ?」


「そう来ましたか〜じゃあ、」


 外は寒い。

 きっと彼女の耳が赤いのも、俺の頬が赤いのもそのせいだ。


「外での私は慧さんにとって何になるんでしょうか」


 少し真剣な声。

 なかなかに答えるのが難しい質問だ。ちょうど俺も彼女をどう位置付けるのか迷っているところで。

 実家帰省した時は偽の恋人で、家では主人とメイドで、数ヶ月前までは赤の他人だった。


 であるならば、まだ今は。


「やっぱり外でのかがりも俺のメイドさんだね」


「ふふ、そうですか……今はまだ」


 意味深な言葉を吐きながら彼女は俺の手から鞄を奪い取る。俺の頭の中、かがりに見えてないよな……?


「では私は自分のお仕事を全うしますね」


 残念さと安心感の混ざったかがりの複雑な表情は、冬の夜によく似合っていた。


 

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