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第36話 メイドさんと実家帰省②

 すっと音が消える感覚、コロコロとキャリーケースを転がして、お目当ての席へ。

 発する全ての音が床や壁に吸収される感じ、なんだかむず痒いんだよな。


 さて俺たちは新幹線に乗り込んだところ、ここから合計数時間の旅だ。メイドさ……いや、かがりの実家って意外と遠かったんだな。


 席に座って前からガッコンとテーブルを下ろす。そうそうこの絶妙に不便な遠さがいいんだよな。


 久々に乗るからテンションが上がっている俺を横目に彼女は早速袋を開けている。


「こういう時、先にお昼ご飯食べちゃう派ですか?それとも先にケーキ食べちゃう派ですか?ごしゅ……慧さんは」


 甘噛みしてるじゃねぇか。しかも意味わからん二択だし、

そんなのもう実質一択だろ。


「先にケーキ食べちゃう派がいることに驚きを隠せないんだけど」


「何を隠そう私が先にケーキ食べちゃう派です」


 嘘だろ、こんな身近に。え、口の中が甘ったるい味に満たされた中弁当食べるってことか……?


「そもそもなんでいつもケーキある前提なんだよ」


 ピンポーンと発車のアナウンス。彼女はもう既に小さなプラスチックの蓋に手をかけていた。


「新幹線のお供と言えばケーキと駅弁ですよね?」


「いや、ビールと駅弁だろ」


 しかもその流れでケーキが先に並べられることはないんだよ。


「おかしい……御堂家の当たり前が通じない……」


 何やらぶつぶつ言いながら、プラスチックの小さなフォークがショートケーキに突き立てられる。

 今更になって気がついたが、俺とんでもないところに行こうとしてるんじゃないか?


「ねぇかがり、全然聞いてなかった俺が悪いんだけど」


「うわ、突然下の名前で呼ぶのびっくりす……あ、私がそうしろって言ったんでした。それでなんです?」


「御堂家ってどんなお家なの」


 努めて彼女のひとり芝居を無視して質問を投げる。


「え〜普通のおうちですよ。ちょっと大きいですけど」


「ちょっと大きい……」


 段々俺の想像が正しいことが彼女の口によって明らかになる。


「お庭はあります!」


「聞くの怖いんだけど、どれくらいの大きさで?」


「私と慧……さんが住んでるお部屋よりは広いです!」


 もぐもぐとショートケーキを頬張りながら、なんでもないように答える。いちごはまだ残ったままで。


 案の定という言葉が今より似つかわしい瞬間を俺は知らない。あぁ、苗字で少しは思ったけどやっぱりこのメイド……。


「あ、別邸とかもありますよ!そういえば!」


 立ち居振る舞い、服のセンス、外での言葉遣い、やけに綺麗な礼。

 思い出せば思い出すほど、これまで散りばめられたピースが繋がっていく。


 御堂かがり、どうしてメイドなんてやってるんだ。

 どう考えてもお嬢様じゃねぇか。

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