第34話 メイドさんとほろ酔い
「何してるのメイドさん」
金曜日の夜、珍しくソファに寝転んでいるメイドさんに声をかける。
普段はお風呂に入って着替えてからだらだらする彼女が、今日はメイド服のまま寝転んでいる。
「あ、ご主人様だ〜!さぁさぁこっちに来てご主人様も一緒に寝ましょう」
ぱしぱしと肘置き部分を叩いて俺を呼ぶメイドさん。そこには寝れんだろ、俺の身体の幅何cmだと思ってるんだ。
「そこは難しいかな、狭いし」
「わがままですね〜よいしょ、これならどうです?」
背もたれ側にきゅっと身体を寄せて彼女へ両手をこちらへ伸ばした。
重そうなメイド服のスカートがオーロラのようにソファへ垂れている。その上に乗ったら彼女の身動きが取れなくなりそうだ。
「それでも厳しいんじゃないかな、良かったら座らない?」
「ん〜〜起き上がるのめんどくさい!ご主人様起こして!」
伸ばした両手をふりふり、頬は赤く染まって形の良い唇は尖っている。
まるで子どもだな、なんて思いながら彼女の手を掴むと力を込めて引き上げる。
軽い、と思ったのもつかの間、メイドさんは俺の方へと身体を倒した。
ふわっと香るいつもの甘い匂いの中に、鼻の奥を刺激するような匂いが混ざっていることに気づく。
「メイドさんお酒飲んだ?」
「まっさか〜仕事中に飲むわけにゃいじゃないですか!」
この状態で酔ってないは無理があるだろ。というか定時はとっくに過ぎてるんだから自由に飲んでいいのに。
彼女をソファの背もたれに押し付けてちらっとキッチンへ目を向ける。
すると両頬を掴まれてそのままぐりんと首を回される。
「ご主人様、キッチンは見ちゃだめでしょ。こっち見て」
そのまま頬をもてあそばれること数秒、ようやく開放される。先程と同じように自分の隣を手で叩いて座れと仰せのメイド様。
「はい座ったよ」
「えらいえらい!では腕をお借りしますね」
腕を絡めてこちらに身体を預けるメイドさん。年相応……というか実年齢よりも幼くなってるな。
お酒を飲んだ理由はわかっている。明日から彼女の実家に帰るから緊張しているのだろう。
普段は気を張ってる……気を張ってるか?……危ない危ない、一瞬疑いが頭を過ぎってしまった。普段頑張ってるメイドさんが甘えてきたら、しっかり甘やかすのがご主人様の責務だと思うのだ。
また酔いが覚めた時に彼女に怒られよう、そこまで考えたところで俺も眠気に襲われる。
きっと隣から体温が伝わったせいだ。
明日からの帰省に気合いを入れるためにも少しだけ、少しだけこの熱に心を預けた。