第33話 メイドさんと勝者の事情②
「まぁ敗者に選択権がないのはわかっているから全然行くんだけど」
まぁ本当に嫌なら断ってもいいんだろう。ただ、俺が行くことで少しでも彼女の心の憂いが晴らせるのなら吝かではないのだ。
「ではでは日程はまたお伝えしますね!」
そう勢いよく言ったメイドさんはソファから離れるそぶりもない。
まだ何かあるんだろうか。
「そしたらですよご主人様、私たちの設定を考えましょうか」
「設定?あぁ、嘘つくための」
「嘘とか言わないでください人聞きの悪い」
いや、嘘だろうが。まさかご両親に「この人が私のご主人様です」とか紹介する気か?
社会的に抹殺されるの待ったなしじゃねぇか。二度とメイドさんもメイドさせてもらえないだろう。
「んで、どうやって出会ったことにする?」
「会社関係でいいじゃないですか、事実だし」
曲げにねじ曲げまくって事実だけどな。俺は会社の人間じゃないしな。
「じゃあそれでいくか、部署が同じとか?」
「私が後輩ってことにしますか」
「メイドさんが後輩かぁ」
俺より仕事できそう。てきぱき終わらせて「まだ終わってないんですか、先輩」とか絶対言われる。泣いちゃうかも。
「何か問題でも?」
「いやぁメイドさんが後輩だったら突き上げが怖いなぁと」
「私のことなんだと思ってるんですか……」
呆れたように首を振る彼女。メイドさんの表情がころころと変わるところ、魅力的だと思う。
少し揶揄ってみたくなるけど、多分返り討ちにされるから控えておこう。
「あとは……付き合って3年くらいにしときますか」
「おっけー、なんで3年なのかは聞かないでおくわ」
「特に理由はないんですが、」
聞いてないって言ってるのに彼女は話し始める。
「一緒に住んでるって言うためにはそこそこ年数必要かなって」
「え、同棲してるていで行くの!?」
「そりゃ同棲の方が事実なんですから!」
まぁそうだけれども。同棲というか……いや、間違ってはないのか。
そこまで言ってしまうともう結婚まで見えちゃうんだよなぁ。これから先も誤魔化し続けなきゃいけないじゃん。
「それとですね」
「まだあるの……もう結構固まってるくない?」
「これが一番大事で難しいところなんですけど、」
さっきの何かをお願いするような顔とも、俺を揶揄う時のにやっとした顔とも違う、純粋にこの状況を楽しむような、それでいて心臓をぎゅっと掴まれるようなそんな笑顔で彼女は口を開く。
「もちろん向こうにいる時は私のことは『かがり』とお呼びくださいね、慧さん」